奇談 地蔵

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地蔵尊


我が家は田舎の山奥にある川のほとりに建っている。

 親も祖父母も亡くなっており、家には自分一人で暮らしている。少し行けば畑や田んぼが広がる農村に着く。我が家は農村から少し離れた所で住んでおり、少し不便である。

 ところで、最近妙なことが起きるようになったのだ。河原の石が勝手に沢山積まれていたり、農村へ行くと地蔵の向きが正面を向いていたのが我が家の方を見ていたり、しまいには川から地蔵の首が流れてきたりするもんだからなんだか気味が悪く思っているが生活する分には何ら害はないと言い聞かせて気にしないことにしていた…先週までは。何が起きたかと言うと、実は去年、数少ない2歳にならない程度の小さい女の子がうちの村に居たのだが川に溺れて水死してしまった。

 みんな可愛がっており、もちろん自分も普段の子供らしい言動に微笑ましく思ってみていたのだが…ある日大人が目を離した隙に水に興味を持ったのか流れの強い川に入り、溺れてしまったのだ。

 今でも鮮明に彼女の顔を思い出せる…なぜなら、こないだあの子と全く同じ顔の地蔵が川の真ん中に立っていたのだから。

 自分の目を疑った。あまりにも似ていた、いや、似ていると言うより本人を石にしたかのような精巧さなのだ。その後も他の溺死、水死してしまった人の顔をした地蔵が家の周りに現れるようになった。河原の石にまで顔が彫られる始末だ。

 精神が疲弊し、自分は寝込んでしまった。

深夜二時くらいだろうか、目が覚めた。体が異様に重い、いや重いなんてもんじゃない内蔵が潰れるかと思うほどの重圧に腹筋を固めて抵抗しつつ近くのリモコンで部屋の電気をつけると、カタカタ、カタカタと揺れる地蔵の顔があった。しかもその顔は亡くなった父の顔をしており、口元はニタァっと笑っているのだ。

 急いでどかそうにもこちらは体をほぼ動かせず、しばらく耐えていると突然体が軽くなる。地蔵が突然サラサラと消えてしまった。驚きつつも安堵すると今度は遅れて背筋の凍る思いがする…なぜあの地蔵は顔が父の顔だったんだ?

しかしそんなこと考えても仕方がないと割り切り今日も畑へ向かうことにする。そう思って支度を済ませ外へ行こうとすると、首だけの地蔵が中身がくり抜かれたかのようになって転がっており、そこには文字が沢山刻まれていた。お経か何かかと思って見てみるがそこには「死ね還れ死ね還れ死ね還れ死ね還れ死ね還れ…」と、延々と彫られており、これまでの一連の事を考えるとイタズラなどでは無いと確信できる。しかもその地蔵の顔が自分の顔なのだ。そうして震えていると、どうやら迎えが来たようだ。割れた地蔵の面を付けている黒くペカペカとした、手足が異様に長い4mほどの人型のモノがドロドロと黒い液を身体中から零しながら後ろに立っていた。

 目は無く、腕の関節は折られたのかと思うほど不自然な曲がり方をしていた。次の瞬間自分の首は握り潰され、千切れていた。

 死んだと思ったが目が覚めると視界がやけに狭く低い、体は殻のような物があり思うようには動かない。腕や足が折りたたまれており、開こうとすると殻がガタガタと震える。

 思い切って力いっぱい手足を開くと急に視界は高くなった。自身の手を見ると黒くペカペカと光っていた。

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