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ある男が、交差点に供えられた紫苑の花を見て、友人を追う決意を固めた。


友人は山で落雷に合い、幸運にも生還し、しかし記憶をなくしてしまったという仮説を立てた。


家を尋ねたが応答はなかった。家に鍵はかかっていなかったため、男はまだ友人が怒っており、出てこないだけだと中に入った。


そこに友人の姿はなく、床には友人が大切に思っていた女性――それは男にとってもまた友人であった――の写真とノートが落ちていた。


ノートには、女性を喪った絶望が書かれていた。


読み進めていくと、書き手は自分自身に暗示をかけ、彼女のことを忘れるよう、試行錯誤していたようだった。


一時的に忘れることはできるが、ふとしたことで思い出してしまい、余計に苦しくなっていることが読み取れた。


ノートの最後のページには、譜面があった。それは自己暗示を解くために記録したと記されている。


男は家に友人がいないことを理解すると、外に出た。


それまで降っていた雨は家の中にいるうちに止んだようで、空は雨雲がすべてを連れ去っていったように透明だった。


庭に咲いた花の水滴は陽の光を受けて輝いていた。


中心には土が盛られていた。雨上がりの土の匂いは程なくして感じなくなった。

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雨上がりに残らない 逆傘皎香 @allerbmu

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