Epilogue: What The Darkness Brought For The World Was Despair. But For The Two, It Was...

「う……ん?」


「……目覚めたか」


「はっ! アタシ、どのぐらい眠って!?」


「ざっと、1時間だな。安心しろ、襲撃はまだ始まったばかり。盛り上がるのはこれからだ」


「ということは……」


「ああ。つい今しがた、魔法少女どもが現れたところだ」


「くふっ……楽しみ。 ……今なら、行っても良いですよね?」


「その顔なら、問題あるまい。ふっ、期待しているぞ」


「お任せください、首領様。必ずや、ご期待に応えて見せましょう」


「さあ、往け。その力、存分に揮うがいい。そして、見せてやれ」


「はい、勿論です!」



――――



「あ、やっと始まった」

 彼女が部屋を発ってから1時間、ようやく襲撃のニュースが始まった。

「……あれ?」

 それでも、彼女の姿は、どこにもない。

 しばらくして、魔法少女が現れたが、そこにも彼女はいない。

「やっぱり、あの子は……」

 正気に、戻って――


「――っ!」

 そう、思った瞬間。

 彼女が、画面の奥から姿を現した。

 穏やかな表情で、ゆっくりと画面手前に、魔法少女の近くに、歩みを進める彼女。

 その服は部屋を発った時の、あの邪悪に染まった魔法少女姿ではなく、家にいるときの私服姿で。

 手にしたステッキも、見慣れた刺々しいものではなく、おそらく本来の姿であろうメルヘンチックな物へと変わっている。


 ある程度少女たちに近づいたところで彼女は歩みを止めて目を閉じ、カメラと少女たちに見せるようにステッキを構えた。

「ああ……」「先輩……」「正気に……!」

 彼女の姿を見た魔法少女たちの顔が、一気に明るくなる。

 

 だが……


 少女たちが安堵し、希望を見出したのを確認すると……彼女は見せつけるように、邪悪な笑顔を浮かべた。

「なぁんて、ね」

 彼女は構えたステッキを無造作に投げ捨てると、踏みつぶして壊し、破片を踏み躙る。

 バラバラになったステッキは、光の粒子へと変わり、闇に溶けるように消えていった。

 少女たちの哀れな儚い希望も無残に打ち砕かれ、皆それぞれに驚愕する。


「アナタ……何を!?」

「何って…… もうアタシには、こんなオモチャ必要ないから」

「なっ……何を、言って……っ!?」

「ふふっ……見せてあげる。今のアタシの、本当の姿」

 闇が彼女に纏わりつき、その姿を、衣装を、変えていく。

 魔法少女の面影なんて微塵もない、闇に生きる者として相応しい姿へと。

「さぁ、来なさい。アタシはもう、逃げも隠れもしない!」


 もはや彼女が魔法少女ではなくなったことを理解したのだろう。彼女たちの顔は、驚愕から絶望へとその表情を変える。

 その時点で、今夜の勝負はもう決したようなものだった。


 案の定、彼女は魔法少女たちを以前のように圧倒する。

 連携も、小細工も、その全てを力と技で正面から叩き潰し、少女たちを追い詰めた。

 しかし、彼女が少女たちにトドメを刺そうとした瞬間、眩い光が少女たちを包み込み、次の瞬間、そこにはもう誰もいなかった。

 きっと、誰かが少女たちを逃がしたのだろう。

 戦う相手がいなくなった彼女もまた、その場から姿を消し、あとはただ破壊だけが残った。



――――



 それからしばらくして、彼女が帰ってきた。


 ベランダに降り立った彼女を、月明かりが妖しく照らし出す。


 以前とはまるで違う衣装に、悪意と自信に満ちた表情。


 その姿を直に一目見ただけで、この一週間感じていた私の不安は、跡形もなく消え去った。


 私は嬉しくなって、思わず彼女に駆け寄り抱きつく。


「わっ、ちょっと ……もう」


 驚いて、呆れながらも、彼女は満更でもなさそうに抱き返してくれる。


「おかえりっ!」


「……ええ、ただいま!」

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闇がもたらした二人への救済 蛇石葉月 @hazuki_1613

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