新・解決編

「…」

「なんだよ?これで満足かよ探偵もどき。

 どうせなら名探偵くらい目指してハッピーエンドで終わらしとけよ…はぁ…」

一ノ瀬くんがその場にうずくまる。

「一ノ瀬くんさ、あれやっぱ、プレゼントだったんでしょ」

「…」

「文房具だし、レモン色だし、野原さんが好きなものセットだったもんねぴよこ」

「…」

「机に両面テープで貼ってある消しゴムハンコなんてまあ、誰かの落とし物とか思うよね。まさか柳先生の力作とは。先生気づくの早すぎだったよ」

ダンッ。一ノ瀬くんが机を叩く。いつの間にか立ち上がっていたらしい。

「だったらなんなんだよ、そうやって人の気持ち暴いて楽しいかよ探偵さん」

そう言ってすぐ、一ノ瀬くんの顔に言い過ぎた、という感情がありありと浮かんだ。思わず笑ってしまう。

「ふふっ」

「な、なんだよ急に。…はぁ、ちょっと言い過ぎたよ、悪かったって。大丈夫か?ショックで気が狂ったか?」

「もうほんと、一ノ瀬くんって感情すぐ顔に出るし思ったことすぐ言うよね。」

「え、みんな大体そうだろ。一視がいつもニコニコしすぎなんじゃねえの。」

「やっぱり…、そう見える?」

「ああ、一時期ニコニコメガネってあだ名ついてっ…、あ、その…ごめん…」

「ははっ、一ノ瀬くん正直すぎ!もう絶対ウソとかつかないほうがいいよ、ほんとむいてない。」

「うん…そうするよ。」

うつむいたまま、一ノ瀬くんが小さく言った。

「じゃあまずは先生のとこいこっか!」

垂れ下がった一ノ瀬くんの手を、勢いよく引っ張る。

「え、おい一視!いいよ俺一人で」

「名探偵くらい目指せって言ったじゃん?一ノ瀬。」

「え、まあ言ったけどそれとこれとは」

「ハッピーエンドにさせてよ。これから。一ノ瀬すぐ感情的になるから、先生と、野原さんに説明するの大変でしょ?サポートさせてよ。」

一ノ瀬くんが僕の手を振り払う。

「はぁ?ふみのちゃんとこ行くとは言ってねえし、というか結局お前上から目線か」

「僕さ!」

怒り出しそうな一ノ瀬くんを遮って、僕は言う。

「羨ましくて見てたんだよ、君たちのこと。」

「羨ましくて…?」

「お互い好きなこと言い合えてる二人が、羨ましかった。あと…」

「あと…?」

ぐっとお腹に力を込め、一ノ瀬くんを見る。

「僕の好きな野原さんと、笑って話しているのが羨ましかったんだあぁ!」

一瞬、その場が固まった。

先に話したのは一ノ瀬くんだった。

「え、一視、え、お前も、え?マジ…?」

「うん、マジ、です。」

こんなに恥ずかしかったこと、今まであったかな。顔から何か吹き出している気がする…。

一ノ瀬がこらえきれない!といった表情で笑いだした。

「ふっ、ははははっ、一視、そんな顔するんだな、なんかもう今日は、ははっ、わけ分かんねえや、ははっ」

「そんな笑うことないだろ…僕は本気で」

「ふふっ、悪かったって。お前も感情的?な顔できるんじゃん。その方がいいよ、俺は。」

親しげな顔で、一ノ瀬くんが笑う。

「それじゃまあ、エスコート頼むわ名探偵さん!」

「うん!任しといて!」

レモン色のぴよこを大切に手に取り、僕らは二人、ハッピーエンドに向かって歩き出した。




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後ろの席の探偵さん maRui @_maRui

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