第2話 新しいこの世界

 自分の姿が映る水たまりを見つめ、色々と思いを巡らせるが相当脳内混乱しているのだろう。それともトマトになってしまった影響で考えがうまくまとまらないのだろうか……。


「リエリー?あなたはお話しすることが出来るの?」

「え?」

 声のするほうに視線を移すと、女の子がこちらを見つめながら喋りかけてくる。


「リエリーって俺のこと? トマトのことをリエリーって呼ぶの?」

「わあ! 本当にお話しできるのね! トマトという名前は知らないけれど、あなたはリエリーっていう野菜よ」

 女の子は俺が喋ったのが嬉しいのか、ニコニコしながら色々な話を聞かせてくれた。


 女の子の話によると、やはりこの世界も元居た世界とは異なる異世界らしい。ただ、時間の流れや季節、言語は元居た世界とほぼ同じのようだった。

 異なることといえば、この世界にはいくつか種族のようなものがあるということ。そして、魔術や精霊といったものが存在するということだ。


 また、個々に付いている名前が異なるものも多い。その中でもトマトはこの世界ではリエリーというらしい。


「ねえ、リエリー……あなたのお名前は?」

「俺はトマ……、じゃないな。俺の名前は拓海。君は?」

「私はミアよ。よろしくね拓海!」

 ミアは嬉しそうに俺の名前を呼んだ。元居た世界では、あまり呼ばれなかった自分の名前を他人が呼ぶのを聞いて、少し胸が熱くなる。


「よろしく、ミア」

 その後は、自分の元居た世界の話やミアに会う前に別の異世界で死んでしまったことなどを話して聞かせた。

 ミアは興味深そうに、その話を聞いていた。


「面白いわ! じゃあ、拓海も私たちと同じヒトだったのね!」

「ああ、そうだよ。とりあえず今の目標は、このリエリーからどうやってヒトに戻るかかな……」

「拓海はやっぱりヒトに戻りたいの? お話しできるリエリーって可愛いと思うのに」

「だって、リエリーって野菜じゃないか。ヒトに比べて生きられる期間が短いじゃないか。それに……。」


「それに?」

「俺は、健康な身体で生きてみたいんだ。この世界に魔術が存在するならリエリーの俺でもヒトに戻れるかもしれないだろう?」


 ミアは何か考えている様だ。しばらく何かブツブツと言いながら地面にくるくると指で円を描いていく。


「ミア、どうした?」

「待ってて、もうすぐだから……。あっ出来た!」


 ミアがそう言うと、地面から光の粒が噴き出し俺に降り注いだ。あまりの眩しさに、視界が真っ白になる。

「うわっ、眩しい! ミア、何をしたんだ!?」

「昔ね、おばあちゃんに教えてもらった魔術なの! 少し時間の進み方を遅らせるっておばあちゃんは言っていたわ。これで、拓海は普通のリエリーより長く生きられるはずよ」


 光の粒がだんだんと消えていき、笑顔のミアが視界に戻った。

「なんで俺に魔術を?」

「だって拓海はヒトに戻りたいんでしょう? 私もその方法を一緒に探そうと思って……。そうなると時間が必要かなって考えたの」

「ミアは優しいな。他人の俺にここまで気を使ってくれるなんて、まるで聖女にでも出会った気分だよ……」


 そう言うと、ミアは驚いたような表情を見せあたりを見回す。不思議に思っていると、ミアは俺に顔を近付ける。

「どうして気付いたの?」

 その声はコソコソ話をするような小さな声だった。

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いきなり異世界は聞いてない!~普通の生活に憧れていただけなのに~ 蜜咲 @mitsusaki

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