眠れぬ夜の出来事

クロノヒョウ

第1話


 (ね、寝れねえ……)


 俺は隣で気持ち良さそうに寝ているタケルの綺麗な顔を眺めていた。



 ――三時間前、バイトから帰り風呂に入ってくつろいでいるところにチャイムがなった。


「よっ、誠也せいや


「タケル?」


 ドアを開けるとそこには笑顔でコンビニの袋を持っているタケルが立っていた。


「今日泊めて。誠也明日はバイト休みだろ?」


「え、あ、うん」


「俺も休みぃ」


「あ、ちょっと……」


 俺の返事も聞かずにタケルはずかずかと家の中に入ってきた。


 タケルはいつも突然だった。


「へえ、意外と綺麗にしてんじゃん」


 タケルは俺の部屋を見ながら自分の家かのようにソファーに座った。


「な、なあ、どうしたんだよ突然」


「ん? ちょっとね」


「ちょっとって……」




 タケルを好きになったのは大学に通いだしてすぐだった。


 いつも何人かの女の子に囲まれているタケル。


 顔が良くて気さくで明るいタケルがモテるのは当然だった。


 何を隠そう俺もそんなタケルの顔がめちゃくちゃ好みだった。


 せめて見るだけでもといつもタケルを眺めていた。


 何も期待しない。


 ただ見ているだけ。


 それだけで満足だった。


 ところが一ヶ月ほど前、俺は突然タケルに声をかけられた。


「ねえ、この前講義一緒だったよね? 俺タケルって言うんだけど今日ヒマ?」


 何のことはない、よくある合コンの人数合わせにタケルはたまたま近くにいた俺に声をかけたまでだった。


 綺麗な顔で甘えるようにお願いされた俺は断りきれずにその合コンに参加した。


 だが女の子が苦手な俺は何ら話すこともなくテーブルの端で黙々と酒を飲んでいた。


 そんな俺に気を使ってくれたのかタケルは途中で「誠也調子悪いみたいだから俺送ってくわ」と言って俺を外に連れ出してくれた。


 タケルはお詫びだと言って飯を奢ってくれた。


 それからだ。


 それからなぜかタケルは毎日気づくと俺の隣にいた。


 同じ講義の時は自然と隣に座ってくるし、昼も一緒に食べるようになった。


 俺はどんどんタケルのことを好きになってしまっていた。



 そんなタケルが今、俺の部屋で俺の隣に座っている。


 俺の緊張をよそにタケルはいつも通り他愛もない話をしながら楽しそうに笑っている。


 嬉しい反面ドキドキと緊張でどっと疲れた俺は早々に切り上げタケルに寝るように言った。


「タケルベッドで寝ろよ」


「は? 誠也は?」


「俺はソファーでいい」


「やだよ誠也がベッドで寝ろよ」


「いいよ俺はどこでも寝れるから」


「ダメだって、あ、じゃあ一緒にベッドで寝ようよ」


「はあ?」


 目の前にタケルのいつもの甘えたような顔があった。


 ウッ……。


 俺はこの顔に弱いんだよなあ。


「風呂借りる」


「お、おう」


 タケルが風呂に入っている間に部屋を片付けベッドルームで待っていた。


 (いやいや、これって……俺大丈夫か?)


 なんだかソワソワして落ち着かなかった。


「誠也ありがと。さっぱりした」


「ん」


 そしてベッドに入り電気を消した。


「せまっ」


「あはは……」


 笑っているタケルの体温を感じる。


 同じシャンプーなのにいい匂いがする。


 触れている肩がじんじんとしびれてくる。


 (寝れるわけねえよな……)


 俺は何度も寝返りをうった。


 しばらくして眠りについた様子のタケルの顔を眺めた。


「俺の気も知らないで気持ち良さそうに寝やがって……」


 (寝顔も綺麗かよ……)


 俺はタケルのさらさらの髪をそっと撫でた。


 小さくて可愛い唇に自分の顔を近づける。


「ダメだ」


 俺は我にかえって体を起こした。


「はあぁ」


 自然とため息が漏れる。


「生殺しだよ、こんなの……」


 ベッドに座って気持ちを落ち着かせた。


「しないの? キス」


「ヘっ?」


 見るとタケルは目を開けて俺を見ていた。


「お前、起きて……」


 タケルは突然体を起こして俺のシャツの首もとをつかんで自分の方に引き寄せキスをしてきた。


「ん……」


 俺の心臓は一気に加速した。


 柔らかい唇が離れたと思うとタケルの笑顔が目の前にあった。


「な……んで……」


 俺の声は驚きとドキドキで震えていた。


「言っとくけど、誠也が俺のこと好きなのバレバレだよ」


「は? な、な……」


「だってずっと俺のこと見てたでしょ? あんなに熱い視線送られたら誰だって気づくよ」


「う、嘘だろ……てか、いつから……」


「んー、半年くらい前からかな」


「はあ? 俺はもっと前からタケルのこと好きだっ……」


「え?」


「あっ……」


 俺は思わず告白してしまっていた。


「あはは、そんな前から俺のこと好きだったんだ。嬉しいな」


「お、お前……気持ち悪くないのか?」


「なんで? 俺も好きだよ、誠也のこと」


「嘘だろ? 俺のどこが……」


「誠也は皆に何て呼ばれてるか知らないの? クールでカッコいいハンサム王子って呼ばれてるよ」


「は? 何だそれ」


 タケルがずいっと顔を近づけてくる。


「それより、今から俺たちは恋人ってことで」


「いいのか?」


「……うん」


 タケルはまたいつもの甘える顔をしていた。


「好きだ、タケル」


「アハ、俺も」


「ごめん。今夜は寝かせてあげらんないかも」


 俺はタケルをギュッと抱きしめキスをした。




          完


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