第5話 顛末
両親とサリーはしばらく玄関で抱き合って、再会を喜んでいた。
やがて、長時間客を玄関に立たせていたと、二人が気が付いて、母親がサリーの手を引いて、親族の待つリビングに連れて行った。リビングでは歓声が上がっていた。
父親はデニスに尋ねた。
「君の会社はいよいよ生身の人間を作れるようになったのか?」
父親は笑いながら言った。そうだ・・・あれはサリーじゃない。だって、サリーは本当に12歳の時に亡くなって、墓地に埋葬したからだ。自分たちの目の前で。あの墓を掘り起こしたって、サリーが生き返ることなんかない。今の医療ではそんなことは不可能だ。
「みんなに言うべきじゃないかもしれない・・・君だけに真実を話すから、その後どうするかは、君が判断してくれ」
父親とデニスはキッチンに行った。
「遠くから来てくれて本当にありがとう・・・忙しいのに・・・」
父親はデニスに感謝の気持ちを述べて、大事にしていた高級な酒をふるまった。
デニスは自分がすごくいいことをしているのか、または逆のことをしているのか自信が亡くなっていた。
「ありがとう・・・。実はね・・・」
デニスは話し始めた。
6年前に、デニスはサリーと一緒に彼女のアバターを作る作業に取り掛かった。その時、サリーはその6年前にすでに自分のアバターが作られていたことに気が付いたんだ。
そして、サリーの強い希望で、自身のアバターと対面した。そこにいたのは、6歳の時の自分だった。画面の中に閉じ込められている。かわいいけど、まるで氷づけの魚のように、永遠に姿を変えない自分だった。そんな境遇なのに、ずっと笑顔でテンションが高い。不自然で不気味だった。AIの技術はすごいけど、人間らしさがなかった。完全な作りものだ。
幼い時の姿を永遠にとどめたところで、両親の悲しみが言えるとは思えない・・・と、サリーはデニスに言った。
デニスははっとした。その時、彼はイタリアにある世界一美しいミイラのことを思い出した。1920年に2歳で亡くなった少女がいた。悲しみに暮れた両親は、当時エンバーミングという遺体防腐処理で著名だった医師に依頼して、その美しさを永遠にとどめようとした。
その少女は現在でも、生きているように美しい。ただ眠っているだけのようだ。ミイラと言ってもエジプトの物と違って、まるで蝋人形みたいなんだ。
最初のうち、両親は少女に頻繁に会いに行っていたが、やがて行かなくなってしまったそうだ。永遠に変わらない美しさは、永遠に消えない悲しみをもたらした・・・。
生きていたら毎日子供は変化する。
しかし、少女はずっと2歳のままだ。毎回、両親は娘がすでに亡くなったという事実、もう娘に何もしてあげられないという現実を突きつけられたのだ。
AIのアバターにも同じことが起きるはずだ。
そうだ・・・アバターを成長させていけばいいんだ・・・。
デニスは閃いた。最新のニュースやトレンド、家族のこともAIに教えて、知識や会話のバリエーションを増やす。それに、顔も変えて行く・・・。
そうやって、案を練っている間に閃いたのだ。
似た女の子とすり替えてしまおうと。
デニスはサリーや家族に似た、白人の女の子を探した。年齢が近く、身寄りのない子を。そして、ちょうど最適な子を見つけたのだ。名前はアマンダ。彼女に自分のプロジェクトを説明して協力を仰いだ。アマンダは快諾した。彼女は両親が亡くなっていて、孤児だったからだ。兄弟もいない。アマンダはサリーの家族を本当に愛した。ずっと会いたいと思っていた・・・でも、自分が本当はサリーでないということを告げるのが怖かった。家族を失望させてしまうからだ・・・。
しかし、大学に入った年に、デニスが誕生日パーティーに招かれたことで家族に会ってみることにした。
みなさんは、この後、この家族はどうなったと思うだろうか?
きっと、みなさんの想像通りになってるだろう・・・。
一番いい形で、孤児の女の子と、娘を亡くした家族は合流したんだ。
アマンダはサリーじゃなく、アマンダという一家の新たな娘になった。
住んでいる所は遠いけど、彼らは本当の家族だ。
死者のアバター 連喜 @toushikibu
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