第4話  再会

 サリーは画面の中で、どんどん成長して行った。ハイスクールでは、別のボーイフレンドと付き合っていた。その子は、アメフト部のレギュラーで、理想のアメリカ人少年と言う感じだった。白人でブロンドのハンサム。誠実で礼儀正しい青年だった。

 

 サリー自身は、平日は勉強とチアに打ち込んでいた。成績はオールAだとか。顔も幼い頃の面影が全くなくなっていた。髪を金髪にしたり、おしゃれにも余念がなかった。きっと学校では人気者なんだろう、と両親は思った。

 

 友達もたくさんいるようで、週末はショッピングモールで一緒に買い物をすることが多いそうだ。かなり田舎に住んでいるらしい。免許を持っていて、車は日本車に乗っているそうだ。誰がお金を出しているんだろう・・・両親は思った。そう、両親は娘が仮想空間に生きていることを完全に忘れていたのだ!


 サリーはさらに大学に進学することになった。名門私立大学に奨学金をもらって通うそうだ。彼女は若さに輝いていた。

「私たちはあなたを誇りに思うわ」

 両親は泣いて喜んだ。サリーも一緒に泣いていた。

「私はこれからもずっと成長するわ。だからずっと見ててね」

 

 そう。サリーの家はずっと5人家族だ。

 サリーは死んでなんかない。


 その年のサリーの誕生日パーティーに、家族はデニスを誘った。彼は「喜んで伺います」と言った。家族は招待状を郵送して、それに飛行機のチケットを同封した・・・。自腹で行くには遠すぎるからだった。デニスはシリコンバレーに住んでいて、サリーたちは東海岸だった。

その頃には、サリーの誕生日に来てくれる友達はいなくなっていた。だから、ここ2年くらいは、祖父母と家族だけのささやかなパーティをしていたのだ。

「仕方ないわ・・・みんなと全然会ってないし」

 と、サリーは寂し気に笑ったいた。

 

 誕生日パーティーの夜。家族はリビングを派手に飾り付けて、プレゼントを準備して、みんなでパソコンの前の集まった。家族はサリーを驚かせようとわくわくしながらパソコンを立ち上げた。サリーへのプレゼントはデニスに送っていた。そして、後日、本人に渡してもらうのだ。すると、数日して、サリーがそのプレゼントを本当に身に着けて画面に出て来てくれる。毎年そうだった。


 サリーは今年のプレゼントもきっと喜んでくれる。

 特に、その年は大学に入学した年だったから、お祝いを兼ねて、すごくいい物を準備していたのだ。


 パソコンを立ち上げて、ルームに入ったが、そこにサリーはいなかった。

 というか、サリーがオンラインになっていない。


「サリーがいないわ!」

 妹が騒ぎ始めた。

「どうしたのかしら・・・」

 両親も動揺し始めた。

「何かあったのかしら・・・」

「アバターだから消滅したんだよ。デジタルなんてそんなもんさ」

 弟は言った。

「やめてよ!」

 サラや両親は叫んだ。

「サリー。どうしたらあなたに会えるの?」

 母親は泣き叫んだ。

 家族はその時、サリーを亡くした時のような深い絶望に打ちひしがれていた。

「きっと、デニスがいないからだよ。デニスがいなかったら、サリーも出て来れないんだ」

 弟は言った。


 そうかもしれない・・・一緒にいた親族たちも納得した。

 デニスを呼んだことで、主役のいない誕生日になってしまうんだ。両親はショックだった。

 しかし、母は気持ちを立て直そうと気丈に振舞った。

「でも、仕方ないわ・・・デニスのお陰で私たち、サリーに会えてるんだから。デニスが来てくれたら、盛大に歓迎しなきゃ!だって、カリフォルニアのシリコンバレーから来るのよ!」

 

 家族は多少大げさでも、デニスが来たら大喜びしてみせようと身構えていた。


 やがて、ドアを叩く音がした。

「デニスだわ」

 母親がわくわくしながら玄関に出て行った。


 しばらくして、悲鳴が聞こえた。

「キャー。何てことなの!!」

 静かなリビングに、母親の叫びが響き渡った。


 父親は真っ青になって、リビングに隠してあった小さなピストルを手に取った。

 そして、玄関に向かった。廊下に出る前に、夫は壁に隠れながら妻に尋ねた。 

「大丈夫か?」

 夫は玄関口でホールドアップに遭って、両手を上げている妻を想像していた。

「大丈夫よ!ベン!それより早く来てよ!」

 妻の声を上ずっていた。

 妻は拘束されてなんかいなかった。ドアの外にはデニスが立っていた。


「あなた!サリーよ!サリーが来てくれたのよ!」

「え!?なんだって?」


 父親も目を大きく見開いた。視線のその先には、デニス。その後ろに若い女の子がいた。いつもアバターで会っているサリーだった。


「サリー!!」


 父親は夢中で走り寄って、その女の子の手を握った。

 目には涙があふれていた。

 女の子は「パパ」と言った。

 そして、抱き合って一緒に泣いた。


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