第3話 アバターとの対面
家族はカリフォルニア旅行から戻った。
行先はサリーがずっと行きたがっていた、アナハイムのディズニーランド。
写真を持っていったけど、生きている間には行くことができなかった。
そう考えただけで、両親は申し訳なく感じてしまった。
「ごめんね・・・」という言葉しか浮かばなかった。
アバターの会社のデニスが旅行中も何度か連絡をくれていた。
「家に帰ったら連絡してくださいよ」
と、盛んに言っていた。
両親は気が重かった。
サリーのアバターに会ったところで何かを埋められるわけではない。
アバターではサリーの代わりには到底ならないのに、生きている間は、それにすがってしまった。頼まなくてもよかったかもしれない・・・。
しかし、デニスにも失礼なので、覚悟を決めて、初めてサリーのアバターに会うことにした。きっと精神的に持たないだろうと思った。むしろ、悲しみを増幅してしまうに違いない・・・。
リビングでみんなで集まってパソコンを立ち上げた。両親は子供たちを気遣って明るく振舞った。
「Hi!サリー」
みんなで手を振った。
「Hi!パパ、ママ!マーチン、サラ!みんないるのね!」
目の前には血色のいいサリーのアバターがいた。まるで、Zoomで話しているみたいだった。
「サリー!どこにいるの?」
母親は思わず叫んでしまった。
「会いたいわ!」
そう言ってわっと泣き出した。
「ママ、泣かないで。私はすごく素敵な所にいるの。友達もたくさんいるし。だから、心配しないで。それより、ディズニーランドどうだった?」
「え、知ってるの?」
「うん。デニスに聞いたの」
「ごめんね。一緒に行けなくて」
「いいの。今は、ディズニーよりも、ビリー・アイリッシュの方がいいわ」
サリーは笑った。まるで生きている人と話しているみたいだった。
最近の若い子の流行や好みなんかを取り入れているんだ。
「じゃあ、ビリー・アイリッシュの曲を私も聞くわ」
「ママはきっともっと明るい曲を聴きなさいっていうと思うよ。でも、私は好きなの。友達もみんな好き」
「そう・・・毎日どんな風に過ごしているの?」
「学校に行ったり、勉強してるわ。それに、チアリーディングのチームに入ったの」
「あら」
まるで、親元を離れて寮に入っているみたいだった。家族は天国からの通信を楽しんだ。その間、一度も不自然なところはなかった。もしかしたら、デニスがサリーのアバターを話させているのかもしれないが・・・。
でも、明るい性格はサリーそのものだった。
「また、きっと会えるわ。寂しがらないで」
サリーは笑顔で手を振った。
家族はサリーと毎日話した。
今日の出来事や、家族のこと、何もかも・・・生きていた時みたいに。
サリーが13歳の誕生日には、友達も呼んで、みんなでパーティーを開いた。
家族以外はそれを異様な光景だと思っていたが、サリーがあまりにリアルなので、みんな感激して泣いてしまった。
サリーが13歳になって、しばらくすると、彼女は次第に家族と話すのを億劫がっているように見えた。そして「これから彼に電話するから。ごめんね」と言って行ってしまった。
「恋人ですって!」
両親は本当に心配した。娘がAIだと言うことも忘れるくらいに・・・それに、反抗期の娘のように切れて見せたりもした・・・。これが本当のティーンだ。いつも素直で笑っているだけなんて、生身の人間じゃない・・・なんてリアルなんだろう。両親は思った。
そして、ある時サリーがにこにこして言った。
「みんな!今日は、ボーイフレンドのジャスティンを紹介するわ」
みんなあっけにとられていた。すると、隣にジャスティン・ビーバーかと思うようなかっこいい男の子が表れた。両親は驚いた。
「はじめまして。ジャスティン」
「よろしく。会えて嬉しいです。直接行けなくて残念だけど・・・」
「ジャスティンは学校のクラスメイトなの」
「へぇ・・・」
両親はあっけにとられていた。
随分作り込んでいると思った。
それからも、サリーは画面の中で成長を続けた。13歳の時のサリーと、15歳のサリーは明らかに違った。でも、徐々に大人になって行くから、それに気が付かないのだ。いつも違う服を着て、化粧をしたり、していなかったりした。髪形も違った。
家族は、まるで娘が海外に住んでいるだけで、飛行機に乗ったら会いに行けるくらいの気持ちになっていた。サリーがもうこの世にいないことを完全に忘れていた。
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