第2話 6年後のアバター

 サリーは12歳になって、ガンの転移が見つかった。

 その時も抗がん剤治療をして、腫瘍が小さくなったら手術するつもりだった。

 でも、今回はそれが上手くいかなかった。

 サリーはもう大きくなっていたから、自分の命があとわずかではないかと気付き始めていた。最近は、具合が悪い日ばかりになっていた。抗がん剤で腫瘍が小さくならなかったらどうなるかも。病院で仲良くなった子供たちが何人も亡くなっていたからだ。私もみんなと同じ所に行くんだ・・・。


 医者によると、もう余命は半年しかなかった。


 両親はまたアバターを作りたいと思った。

 弟のマーチン、妹のサラがいたが、それでもサリーは一人しかいないからだ。

 サリーとの思い出が増えるほど、ますます別れがつらくなってしまった。

 6年前よりもさらに気が重かった。

 2人とも、朝、起きることもできないほどだった。


 両親は、サリーに自分たちの希望を伝えた。

 サリーはAIが何か、それがどんどん学習して賢くなって行くものだ、ということも理解していた。

 アバターは家族のための物で、サリーにとっては何のメリットもない。

 AIは自分が亡くなった後も生き続ける、不気味なクローンのようなものだった。

 サリーは、デジタルの中で永遠に生き続けるが、お化けのようで怖かった。


 しかし、サリーは悩みに悩んで、両親が望むならと承諾した。

 自分が死んでからは、両親に何かしてあげられることがないからだ。

 誕生日を祝ったり、母の日にカーネーションを送ったりもできない。

 たくさんの思い出をもらった分、自分も何かを残してあげたかった。

 それに、何かすることがあれば、苦しみだけに目を向けなくて済む。


 6年前と同じように、サリーはパソコンに向うと、AIから早速質問攻めにあった。


「思い出の場所は?」

「好きな本は?」

「好きな食べ物は?」

「友達の名前は?」

「好きな歌手は?」

「好きな歌?」


「一番好きな人は誰?」

「家族みんなよ。パパ、ママ、マーチン、サラ」

 

 そういえば、6年前にも同じような質問をされていたことを覚えていた。

 ああ、パパとママは6年前にすでに私を諦めていたんだ。

 サラは両親が、今までどれだけ苦しんで来たかを改めて知った。

 6年前は死ぬということにまだ実感がなかった。

 それが永遠の別れであることも・・・知らなかった。

 天国に行っても、また家族と会えると思っていたんだ。

 幽霊みたいに・・・。

  

 サラは気が付いた。

 そういえば、6歳の時の私は?

 今どうしてるんだろう・・・。

 サリーは怖くなった。

 パソコンから出れなくて、暗闇から出してと叫んでいる気がした。

 永遠に開かない扉を叩き続けているかもしれない。

 繰り返し夢にも出て来た。


 サリーはアバターの開発会社の人に電話して尋ねた。

「私のアバターはどこにあるの?」

「私たちの会社にありますよ」

「見てみたい」

「いいですよ」

「パパとママには言わないで」

「わかりました・・・」

 アバターの会社の男性は勝手に承諾してしまった。 

 サリーのことを幼い頃から見ていて、かわいそうだと思っていたからだ。

 アバターを作る仕事は辛かったが、特にそれが幼い子供だと余計にそう感じて、いたたまれなくなった。その人はその会社の設立メンバーで、開発も担当していた人だった。その人も子供がいて、他人事とは思えなかった・・・。サリーのために自分にしてあげられることはないか・・・。自問自答した。


 サリーはそれから8カ月後に亡くなってしまった。


 家族は酷く打ちのめされた。

 しばらく仕事と学校を休んで、みんなで旅に出たりして過ごした。

 旅行をしたりすれば気を紛らわせることはできたが、それでも悲しみが癒えることはなかった。

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