12
12
ミューリエが発した言葉の意味は分からない。ただ、それがどんな答えであっても、僕に出来る戦い方はやっぱり意思疎通の力を使うしかない。それが全ての基本なんだ。
なによりその力は急所を意識しなくても通用すると思う。というのも、同じようなタイプである岩のモンスターには効果が発揮されているから。
――そうか、ミューリエはその様子を見ていないから、敵の力の根源を見極める必要があると思って言ったのかも。うん、充分にあり得る。とりあえず今は、そう仮定しておくことにしよう。
ゆえに僕は気を取り直し、あらためて力の行使を試みる。
視線を向けると、どうやら鎧の騎士の動きはそんなに速くない。ただ、岩のモンスターと同様に一撃は重そうだ。だとすれば、早く力を発動させないと僕の体が彼の攻撃に耐えられない。食らうにしても2発が限界か……。
「へぇ、大したものだな。鎧の騎士を目の当たりにしても、随分と落ち着いてるじゃん。これなら少しはやってくれそうだ」
すっかりリラックスした様子で座り込み、ケタケタと笑っているタックさん。まるで闘技場で戦う剣闘士同士の勝負を見物しているかのようだ。僕たちの戦いは娯楽じゃないんだけどなぁ……。
――おっと、いけない。力を発動させるためには、心を清らかにして雑念を振り払わないと。
僕は深く深呼吸。そして落ち着いたところでいつものように想いを念じ始める。
『鎧の騎士よ、僕は戦いたくない。どうか動きを止めてくれ。元々僕たちは敵同士なんかじゃないんだよ? 戦いをやめよう』
「っ!? なんだアイツっ? 鎧の騎士が間近に迫ってるのに戦意を完全に消しやがった! しかも隙だらけじゃないか! どういうつもりだっ!?」
タックさんの驚愕したような声が聞こえてくる。ただ、僕は視線を鎧の騎士に向けたままだから、どんな顔をしているのかは分からない。きっと身を乗り出して目を丸くしているんだろうな。
確かに僕の能力を知らないなら、それが普通の反応だと思う。
一方、鎧の騎士は依然として僕へ向かって突進してきている。そのスピードは変わらず、しかも動きを止める気配はない。そしてついに僕の眼前に辿り着くと、躊躇なく巨大な右腕を振り下ろしてくる。
「ガァアアアアアァーッ!」
「――がはッ!」
一瞬、僕の意識が飛びかけた。目の前が白く霞んで、息が出来なくて、攻撃を受けた前後は何の音も聞こえなかった。
岩のモンスターの一撃なんて比べものにないくらいの強烈なパンチ。
僕は全身に猛烈な衝撃を受けると同時に弾き飛ばされ、痛みと浮遊感が意識を包み込む。直後、大広間の壁に背中を打ち付け、そのまま床にずり落ちてへたり込む。
思った以上に食らったダメージが大きい。失神しなかったのが不思議なくらいだ。
「か……はぁ……っ……」
「やれやれ、勇者見習いくん。防御もせずマトモに攻撃を食らいらいやがった。まぁ、力が抜けていたからこそ、衝撃を多少は受け流せたわけだけど。ただ、呆気なく終わっていた方が幸せだったかもしれないけどな~っ♪ だってまだまだ攻撃を受けちゃうわけだからさ~☆」
タックさんは僕が攻撃を受けたのは判断ミスとか戦略ミスとか思っているんだろう。あんなに楽しげに笑っちゃって……。
正直、苦しいし痛いし逃げ出したい。それは事実だ。でもこの一撃は僕の意思で、覚悟して受けたもの。力の発動に時間がかかるのは分かっていたことだから。想定外に攻撃が苛烈だったというだけ。
――そうだ、想定外といえば鎧の騎士と対峙してみて分かったことがある。
それは動物や虫、今まで出会ったモンスターに対して念じた時とは印象が違うような気がするということ。全く手応えを感じなくて、僕の心にも変化の息吹が伝わってこなかった。
温かさや心地良さ、相手からの反応みたいなものが一切ない。
まさか鎧の騎士に対しては意思疎通の力が通じないのだろうか? だとしたら僕に打つ手はない。
やっぱりミューリエの言葉は『ヤツの急所を見つけて衝け』って意味だったのかな? あるいはまだ力が発動していないだけで、もうしばらく念じ続ければ効果が出るという可能性も捨てきれないけど……。
いずれにしても残りの体力や今まで受けたダメージを考えると、次の行動がターニングポイントになりそうだ。
――さて、どうしよう?
●鎧の騎士の攻撃を回避し続け、急所を探す……→51へ
https://kakuyomu.jp/works/16817139554483667802/episodes/16817139554484792110
●能力で戦い続ける……→7へ
https://kakuyomu.jp/works/16817139554483667802/episodes/16817139554483928290
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます