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きっとミューリエは本気で言っているんじゃないと思う。でも普通に考えれば確かに彼女の言葉の内容はその通りだろうし、納得も出来る。
もちろん、僕の『あの力』が有効に作用すれば、タックさんのところへ辿り着くことは不可能じゃない。動物や虫だけでなくてモンスターにも『あの力』は通用するし、そういう事実がすでにある。
ただ、あの時はたまたまうまくいっただけで、次も思い通りになるかどうかは分からない。
……そうだよね、もしそうなったら本当に僕とミューリエの旅はこれで終わってしまうんだ。
…………。
あれ……おかしいな……。なんだか悲しくて涙が溢れそうになってきちゃった……。
僕は慌てて指で目の辺りを擦り、軽く鼻を啜る。
「ミューリエ、もしこれでお別れになったとしても、僕のこと、忘れないでね」
「お、おい……泣くヤツがあるか。ちょっと軽口を叩いただけだ。そんなに本気に捉えるな」
ミューリエは瞳を泳がせて当惑している様子。でもその反応をしたということは、僕のことを本当に大事に思ってくれているという証拠かもしれない。それが分かったということを考えると、怪我の功名ってヤツかな?
もちろん、僕も悲しい気持ちになったから手放しでは喜べないというか、こんなやり取りはない方がいいんだけど。
僕はあらためて涙を拭いつつ、ミューリエへ向けて満面の笑みを浮かべる。
「うん、分かってる。でも先のことは誰にも分からないから。だから今のうちにお礼を言っておくね。……短い間だったけど一緒に旅をしてくれてありがとう」
「バカもの! 縁起でもないことを言うな!」
「勘違いしないで。言いたいことにはまだ続きがあるんだ」
「続き?」
「ミューリエ、これからもよろしく。ずっとずっと、ね」
「アレス……」
「僕はミューリエとの旅を終わりにする気なんてないから。絶対にタックさんのところへ辿り着いてみせる。まぁ、探索での僕の姿を見ててよ」
今の僕には可能性を無限に広げる『あの力』がある。次も力が発動してうまくいくかどうかは分からないけど、それが僕の胸にある一欠片の希望。だったら僕は僕自身を信じて進むだけだ!
「意味深な言葉だな。アレスには何か奥の手でもあるのか?」
「内緒っ♪」
「ふふ、そうか。どうなることやら……」
ミューリエはクスッと小さく笑う。その瞳はどことなく優しくて、いつになく穏やかだ。
その様子を見て、僕も思わずホッとして温かな心持ちになる。緊張の糸を張り続けて洞窟を進まないといないといけないのにね。
だから僕はすぐに気を取り直し、周囲を警戒しながら歩を進めていく。
「アレスよ、何を考えているのかは知らんが無理はするなよ? もし私が危険だと判断したら、勝手に加勢するからな?」
「えっ? その場合、ミューリエとの約束はダメになっちゃうの?」
「……残念ながらその通りだ」
「じゃ、絶対に手を出さないで!」
僕は少し強い口調で即答した。
だって今までの経験上、あの力は発動するまでに少し時間がかかると推測できるから。つまり不意を衝くか、誰かのサポートでもない限り僕は攻撃に耐えないといけない。そして攻撃を受ける姿を見て助けに入られたら、全てが台無しになってしまう。
もちろん、これが試練と関係のない戦闘の時なら話は別だけど……。
当然、そんな事情を知らないミューリエは少しムッとしたような顔をして口を尖らせる。
「なんだと? 命の危機でも私の助けは不要だというのか? アレス、ちょっと基礎体力をつけたくらいで自惚れるのも――」
「悔いを残したくないんだっ!」
「っ!?」
「その代わり、本当にダメだと思ったら助けを求めるから。それでいいでしょ?」
僕はミューリエの方へ向き直って懇願した。
彼女が僕のことを心配して言ってくれているのはよく分かる。だけど命を賭けてでも今回の探索は乗り越えなければならない。余程のピンチにでもならない限り、助けを借りるわけにはいかないんだ。
一歩も退かないそんな僕の様子にミューリエは瞳に当惑の色を浮かべる。
「しかしな……」
「僕、どんなピンチになっても絶対に乗り越えてみせる。だからお願い」
その場に流れる重い空気と沈黙――。
やがてミューリエは大きく息をつくと、根負けしたように苦笑いを浮かべる。
「……分かった。それがアレスの覚悟なのだな。そこまで言うのならその通りにしよう」
「ありがとう、ミューリエ!」
僕が喜びを爆発させながらミューリエの両手を握ると、彼女は少し照れくさそうにしていた。
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https://kakuyomu.jp/works/16817139554483667802/episodes/16817139554484526841
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