11

11


 本気で言っているわけじゃないと思うけど、ミューリエは意地悪だなぁ。普通に考えれば確かに彼女の言葉の内容はその通りだろうと思うし、納得も出来るけど。


 だからってそれを口に出さなくたって良いじゃないか。


 それなら僕だって少しは反抗したくなる。このままだとなんだか悔しいから。


「……そうだね。僕もひとりの方が気楽で良いよ!」


「ほぅ? では、私と一緒に旅をしてほしいと言ったのは嘘か? 駄々っ子のようにごねて、食い下がってきたのは誰だったかな? ふふっ」


 笑いを必死に噛み殺しながら、僕の背中を指で突いてくるミューリエ。完全に僕をからかって楽しんでいる。今回の探索は僕にとって特に大事だっていうのに、緊張をほぐすのを通り越して空気を乱されている気分だ。


 だから僕は恨みがましい目でミューリエを睨む。


「もぅ、ひどいよ……。ミューリエが意地悪なことを言うから、僕だって反発したくなったんじゃないか。言われっぱなしは悔しいし」


「はっはっは♪ そうだな、今のは確かに私が悪かった。許せ」


「もうっ、知らないっ!」


「怒るな、アレスよ。お詫びに一度だけなら助け――」


「それはダメ!」


「っ!?」


「ルールはルールだよ。僕だけの力でタックさんのところへ辿り着かないといけない。そもそもすでに照明ライティングの魔法で助けてもらっちゃってるし。それだけで充分だよ」


 僕の言葉を聞いてミューリエは目を丸くしていた。でもその直後、満足げな顔になって小さく頷く。


「……そうか。正直、アレスのことを見直したぞ」


「僕だって少しは成長してるんだよ。もしかしたら、今回の探索でミューリエはもっと驚くことになるかもよ?」


「ほぅ? 意味深な言葉だな。何か奥の手でもあるのか?」


「内緒っ♪」


「ふふ、そうか。どうなることやら……」


 ミューリエはクスッと小さく笑う。その瞳はどことなく優しくて、いつになく穏やかだ。


 その様子を見て、僕も思わずホッとして温かな心持ちになる。緊張の糸を張り続けて洞窟を進まないといないといけないのにね。


 だから僕はすぐに気を取り直し、周囲を警戒しながら歩を進めていく。


「アレスよ、何を考えているのかは知らんが無理はするなよ? もし私が危険だと判断したら、勝手に加勢するからな?」


「えっ? その場合、ミューリエとの約束はダメになっちゃうの?」


「……残念ながらその通りだ」


「じゃ、絶対に手を出さないで!」


 僕は少し強い口調で即答した。


 だって今までの経験上、あの力は発動するまでに少し時間がかかると推測できるから。つまり不意を衝くか、誰かのサポートでもない限り僕は攻撃に耐えないといけない。そして攻撃を受ける姿を見て助けに入られたら、全てが台無しになってしまう。


 もちろん、これが試練と関係のない戦闘の時なら話は別だけど……。


 当然、そんな事情を知らないミューリエは少しムッとしたような顔をして口を尖らせる。


「なんだと? 命の危機でも私の助けは不要だというのか? アレス、ちょっと基礎体力をつけたくらいで自惚れるのも――」


「悔いを残したくないんだっ!」


「っ!?」


「その代わり、本当にダメだと思ったら助けを求めるから。それでいいでしょ?」


 僕はミューリエの方へ向き直って懇願した。


 彼女が僕のことを心配して言ってくれているのはよく分かる。だけど命を賭けてでも今回の探索は乗り越えなければならない。余程のピンチにでもならない限り、助けを借りるわけにはいかないんだ。


 一歩も退かないそんな僕の様子にミューリエは瞳に当惑の色を浮かべる。


「しかしな……」


「僕、どんなピンチになっても絶対に乗り越えてみせる。だからお願い」


 その場に流れる重い空気と沈黙――。


 やがてミューリエは大きく息をつくと、根負けしたように苦笑いを浮かべる。


「……分かった。それがアレスの覚悟なのだな。そこまで言うのならその通りにしよう」


「ありがとう、ミューリエ!」


 僕が喜びを爆発させながらミューリエの両手を握ると、彼女は少し照れくさそうにしていた。



 →19へ

https://kakuyomu.jp/works/16817139554483667802/episodes/16817139554484143963

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る