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 どんな状況であろうと、今の僕が頼れるのは意思疎通の能力だけ。それはこの試練が始まった時から意識していることじゃないか。


 だけど手応えがないということは、力の発動に今までより時間がかかったり効果そのものが薄かったり、何らかの原因で有効性が低いということなのだろう。つまり能力を使って戦っても勝ち目は限りなくゼロに近い。


 だったら相手の攻撃を回避することに全神経を集中して、急所を探る方が有益かもしれない。もし急所が見つけられなくても、動きのクセや攻撃のパターンなどたくさんの情報を得ることが出来る。そして限界が来たら降参して、再挑戦に備えれば良い。


 もちろん、何か反撃の糸口が見つけられて逆転できるなら、それがベストだけど。


「…………。反撃の糸口……か……」


 鎧の騎士に急所があるとしても、果たして僕の剣の腕でそこを攻撃できるだろうか? おそらく無理だろうな……。


 ミューリエは『敵を見誤るな』ってアドバイスをくれたけど、そもそもそれが無茶なんだ。僕が剣を扱えないことは彼女だって百も承知のはずなのに。



 …………。


 ……そうだ、何かおかしいぞ。ミューリエがそんな荒唐無稽なアドバイスを僕に対してするだろうか? ううん、それはやっぱり考えにくい。


 彼女なら僕の力を理解した上で、有効なアドバイスをくれるはずだ。つまり鎧の騎士の急所を衝くとか、能力を使わずに戦うとか、そういう考え方は的外れなのかも。



 もう一度、冷静に考えてみよう。


 僕は剣も魔法も使えない――それはミューリエにも分かっている。つまりあのアドバイスは剣や魔法で物理的に急所を衝けという意味じゃない。


 では、今の僕に出来る戦い方は何か? 意思疎通の能力を使うこと。これが唯一にして最大の切り札。やはり能力を使って戦うのは正しい。


 だとすると、キーになるのは『敵を見誤るな』という言葉の指す『敵』だろうな……。


 広義で言えば、それは鎧の騎士のこと。実体がなくて、魔法力か何かのエネルギーで動く『作られた生命体』または魂などが憑依したアンデッドの類。彼を倒すことが僕に課せられた試練だ。だからこれは間違いないと思う。


 狭義で言えば、鎧の騎士の急所や魂みたいなもののこと。これを指すんだろうなと僕は今まで捉えていたわけだけど……。


 ――そうした事実や認識の中で、僕が何か気付いていないことや勘違いがきっとある。それが答えに繋がっているに違いない。


「ガォオオオオォーン!」


 考えている間にも鎧の騎士は再び僕に向かってくる。さっきの攻撃の感じだと、あと1発食らったら僕は終わりだ。なんとか避けないと。


 一旦、僕は攻撃をかわすことに意識を集中させ、相手の動きをじっくり観察する。


 程なく彼は僕の間近にまで迫ると、腕を大きく振り上げる。既視感のある動き。どうやらそれが攻撃のパターンらしい。


 一つひとつの動作はそれなりに素速いけど、バリエーションには乏しいみたいだ。これなら対処も不可能じゃないかもしれない。


「ゴァアアアアアアァー!」


 今まさに振り下ろされようとしている拳――。


 僕は鎧の騎士を寸前にまで引きつけ、次の瞬間には彼の足と足の間へ飛び込む形で攻撃をかわす。


 拳は空を切り、たった数秒前まで僕のいた場所の床が粉々に砕けて大きく凹む。飛び散る岩の破片と床のひび割れがその破壊力の大きさを物語っている。


 ――いいぞ、まだ思った以上に動ける。少しは走り込みが役に立ったのかも。もちろん、運も味方してくれたんだろうけど。


 とはいえ、状況は全く変わらない。依然としてピンチ。時間が経てば経つほど僕の体力は失われるわけで、いつまでも避けられるわけでもない。


 ミューリエは心配そうに僕の様子を見ている。タックさんは相変わらずケタケタと笑っていて実に楽しそうだ。鎧の騎士はゆっくりと体勢を立て直し、次の動きに移ろうとしている。



 …………。


 ……っ!?


 待てよ? ミューリエの言葉の真意は……もしかして……っ?


 周囲を見ていて、僕はふと気が付いた。ヒラメキが天から降ってきた。


 もしかしたら……本当にもしかしたらだけど、僕の想像が正しかったとしたら可能性はあるっ! 試してみる価値は充分にあるっ!!



 僕は意を決し、力を振り絞って走り出した。そして鎧の騎士と大きく距離を取り、意図した位置へ移動を完了する。



 ――ここなら、きっと効果が出るはず!



 その時、たまたま僕と目が合ったミューリエが微笑みながら小さく頷いてくれた。ということは、やっぱり僕のヒラメキは当たっているのかもしれない。これが起死回生の状況に繋がればいいんだけど。


 もう僕の体力は残り少ないから、そんなに多くのことは出来ない。これが最後のチャンス。次の行動に全てを賭ける!


「すぅ~……はぁ~……」


 僕は深呼吸をして、あらためて心を落ち着けた。すでに雑念は振り払えている。覚悟も出来た。意思疎通の能力を使う準備は万端だ。いよいよ最後の賭けに出る。


 もしこの策が通じなければ僕の負け。でもうまくいったら――


 ――僕の勝ちだっ!



 TRUE END 6-2


 ※こちらが正史ルートです。『第7幕:勇者の証と試練の秘密』は、この続きから始まります。



 引き続き、第7幕をご覧になる方はこちら(第7幕のパラグラフ『1』へ移動します)。

https://kakuyomu.jp/works/16817139556074419647/episodes/16817139556074690400 

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