第8話 強欲と淫蕩


彼女の笑い声は嘲笑であり、は不快感が表さず目にシワをつくりながら嫌悪感あふれる表情を彼女に向けて声を上げる。


「何がおかしいんです?…私、そんな変なこと言いましたか?」


「あなたみたいな淫売女が逞様に愛される筈がないでしょ?…なのに、そんなウソを吐いて、お笑いですわ」


中々ひどい言い草である。

それでも木蓮桔梗は彼女の罵倒を止める事はない。

いやそれは、ただ事実を口にしているだけだった。


「あなたは昔、悪魔に憑かれたことがあったって言ってましたわね?」


悪魔。

その言葉に、水鏡寺潤雨は心臓を跳ねらせた。

顔が段々と熱くなっていくのが分かる。


「私は中学の頃からあなたのことを知ってましたが…」


「イジメられていたあなたは、動画も撮られて写真も撮られて…その写真私の学校の方にも回ってきましたの」


写真、動画。嘲笑の声、自らの喘ぐ様が写された代物。

それを考えるだけで、水鏡寺潤雨は思考を止めると、意識を落とす。

そして、現れるのは、別の人格だ。

しかしその人格は、彼女とはなんら変わり無い存在。


「みんな、あなたに同情してましたが…その表情を見たら、なんと言うか…自分が好き勝手楽しんでいるようにも見えましてよ?」


自分以外の誰かに好き勝手される、それに対して彼女は笑っていた。

淫靡な自分を受け入れて、誰かの奴隷として従い、命令された事を従順に実行する淫売な女として。

しかし…それは過去の事だ。

現在ではその様な事はない、表も裏も、その人格は性行為と言う事実を拒否する。


「そんなの過去のことじゃないですか!!逞さんが、今の私を愛して」


彼女の言葉は遮られる。

木蓮桔梗による言葉の圧によって、無理矢理にも抑えられた。


「その逞さまが言ってましたの…表向きは優しく接してあげたけど、段々と距離が近くなっているから、困っているって…」


肩を震わせる。

彼女の妄言が虚実である事が立証された。

馬鹿にする様に、愚か者を糾弾する様に、卑下た声色で叫ぶ。


「くだらない妄言垂れ流す頭お花畑のメルヘン馬鹿が、足りないオツムを妄想で補って人に迷惑かけてんじゃねぇってのぉ!!きゃははっ!!」


気品も美しさも無い彼女の罵倒。

壁に縋る水鏡寺潤雨は、顔を俯けてその事実を聞き続ける。

そして、彼女は顔を上げる。


「は…ふ、うふふ…」


嬉しそうな笑みを浮かべて。

その表情を見て、木蓮桔梗は不気味だと引いて後退る。


「あー、そーだったんだー…、きっと桔梗さんは、私と逞さんの仲に嫉妬して、そんなありもしないことを言ってるんですねー?」


成程、納得、合点、と。

彼女は何度も何度も首を小刻みに縦に動かしながら、お腹を押さえて立ち上がる。


「本当にそう思いまして?お腹に赤ちゃんがいるなんて、そんなウソが通じるとでも?」


木蓮桔梗はあくまでも、水鏡寺潤雨が嘘を吐いていると言い続ける。

笑みを浮かべていた彼女は、今度は瞳から涙を潤ませては泣き出した。


「う、嘘なんかじゃありません…、どうしたら信じてくれるんですかああっ!!そんな、私が本当だって言ってるんですから、それが本当なんですよおおお!!私は嘘なんてついていません、夜辺さんとの子供は、ちゃんとこのおなかの中にいるんです!!ウソなんて吐いていません!!嘘つき呼ばわりするあなたの方が嘘つきなんですよおお!!」


ぽろぽろと涙を零して、水鏡寺潤雨は叫ぶ。

彼女は本気で信じている、だから、その熱の入り様も本物だと錯覚させる。


「うそ…うそ、嘘…嘘吐きが喋んなよ、汚い臭い気色悪い、洗剤喉奥に突っ込んで泡吹いて死ねよ便所豚ぁ!!」


嘘を吐く水鏡寺潤雨との会話は精神的に疲弊してしまうのか。

もう、彼女を殺してしまおうと、長ドスを振り上げた。


「わた…私が…本当だって言ってるんだから…信じてくださいよおおおお!!私は嘘つきなんかじゃありませんッ!嘘を吐いてる嘘なんて吐かないでくださいいい!!」


水鏡寺潤雨の声に呼応するかのように、彼女の後ろから悪魔が現れる。

真っ白な甲冑を着込み、殉教者のローブを頭から被る。

その頭部には子供の手が組んだようなマスクを装着しており、彼の手には騎士が担う槍が握られている。


「黙れ便所豚ァ!!二度と喋れなくしてやるよぉおお!!」


木蓮桔梗も部屋の中で壊れるぐらいに大きな声で叫んだ。

切っ先の鋭い槍の先端を木蓮桔梗に向けて刺突を繰り出そうとする水鏡寺潤雨の淫蕩エンヴィ

それに合わせて、瞬間的に空間が歪み出す。

雨に濡れたコートに、大きなツバがピンで留められた帽子を被る。

片手はハンガーの掛ける部分の様なフックであり、もう片方は骨太な骸骨の手。

その手には歪曲した片手剣が握られている。

それは、海賊が扱うカトラスであり、淫蕩の槍の先端を、カトラスの刀身で受け止める。

鋼と鋼が擦れる音が響く。

其処には殉教者と、海賊が出現していた。

水鏡寺潤雨の偽造悪魔・『淫蕩エンヴィ』。

木蓮桔梗の偽造悪魔・『強欲グリード』。

二体の悪魔がラブホテルの一室で戦闘を繰り広げられる。


「ほら、やっぱり嘘吐き。悪魔の出し方なんで知らないって言っていた癖にッ!!」


木蓮桔梗が強欲を動かす。

海賊姿の強欲には一振りのカトラスを振り上げながら水鏡寺潤雨へと向かい出す。


「知りませんよおお!私は、悪魔なんて知りません!!」


断固として無知を気取る水鏡寺潤雨。

しかし、彼女の怒りを受信した偽造悪魔の淫蕩は槍の柄で床を叩くと共に、ローブの隙間から子供の様な手が何本も出て来て強欲へと向かい出す。


強欲はその腕をカトラスで一振りすると、腕が切断して血が噴出した。

それでも完全に切り捨てたワケではなく、残る腕が強欲を掴むと共に、物凄い膂力で強欲を壁に叩き付ける。


その隙を狙って、水鏡寺潤雨は床を蹴ると、木蓮桔梗に体当たりをした。

木蓮桔梗は床に尻餅を突いたが、水鏡寺潤雨は彼女を置いてその場から逃走した。

エンヴィも彼女を追っては、魔力で出来た肉体が霧散して消え去った。


「クソがッ…ゲロ臭い豚の存在で!!」


木蓮桔梗は握り拳を作って水鏡寺潤雨を逃した事に怒り、思い切り床を殴った。



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悪魔が憑いたヒロインを悪魔祓いの俺が助けたら、俺が死んでも復活させてしまう程に好意的なんだが病み過ぎてヒロイン同士で殺し合ってるらしい 三流木青二斎無一門 @itisyou

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