第4話
ガラガラガラ。
突然聞こえてきた音に、辰紀くんの体がビクッと跳ねる。多分、私の体も。
「失礼します」
「えっ、快斗くん?」
思わぬ人の登場に、私の心拍数が上がる。どうして、ここに。もうすぐ朝の会が始まる時間だ。私が言うのもなんだけど、そろそろ席についていないと遅刻扱いになってしまう。それに気づいたのは私だけじゃないようで……。
「やば、皆勤賞!」
弾かれたように辰紀くんが駆け出す。そういえば、彼は3年間皆勤賞を狙っていたんだった。呼び止める私に目もくれず、猛スピードで出て行く。えーっと、さっきの話は? あのいい雰囲気は何だったの? ポカンと口を開けて立ち尽くす。
「春飛?」
遠慮がちに声をかけられて、自分が今、1人じゃなかったことに気づく。
「邪魔しちゃったかな」
「いえ、そんな! とんでもない!」
「なら良かった。好意を感じたから、つい来てしまったんだ」
にっこり微笑む快斗くんは、何かトンデモナイ発言をした気がする。好意を感じたって? つまりそれは、私から快斗くん宛ての……。サーッと血の気が引く。きっと今、顔面蒼白になっているに違いない。何も言えずに口をパクパクさせていると、
「あ、ちなみに俺宛てじゃないから」
ステキな笑顔を浮かべたまま、そんなことを言う。じゃあ、誰宛て? ていうか、センサーって快斗くん宛てじゃなくても反応するの? 恐ろしい事実を知ってしまった。この学校で恋する少年少女たちの秘密を、彼は全部握っているってことだ。
「顔色悪いけど、大丈夫?」
一歩、また一歩と近づいてくる快斗くん。それに合わせて、ゆっくり後ろに下がる私。永遠に縮まらない距離、なんてことはなく。私の背中に冷たい感触があった。コンクリートの壁にぶつかったのだ。
「どうして逃げるの?」
まさか、「あなたのセンサーに引っかかりたくないからです」とも言えず、私はただ首を振る。
「俺のこと、嫌い?」
その聞き方はズルい。ふと脳内に浮かんだ選択肢は、『好き』と『好き』。バカッ、選択肢になってないじゃん! 思わず自分の頬をビンタすると、快斗くんが目をぱちくりさせた。やっちゃった。絶対、変な子だと思われた。ガバッと勢い良くうつむいて、目を閉じる。
「あの日を思い出すよ。そうやって、最後まで顔を上げてくれなかったね」
その言葉にドキッと心臓が跳ねる。胸の中を温かいものがじんわり広がった。どうしよう、好きだ。この人が好き。もう言ってしまおうか。逸る気持ちを抑えられそうにない。意を決して顔を上げる。
「快斗くん、私……!」
あの雨の日に、あなたに恋をしたの。
そう、ロマンティックに告白するつもりだった。でも、言えなかった。私のせいじゃないよ? 原因はやっぱり、レンアイセンサー。
「おっ、センサー反応! もしかして春飛、俺のことが好きだったりする?」
忘れていた。彼の厄介な特技。
それのせいで、すっかり告白する気が失せてしまった。ムードも何もなくなった図書室で、私はもう少しはぐらかすことに決めた。
「ね、春飛。俺のこと好きなの?」
「さてと。教室に戻ろー」
「あ、待って! まだ話は終わってないよ」
騒ぐ快斗くんを置き去りに、私はため息をついた。一体、いつになったら「好き」と伝えられるんだろう。
レンアイセンサーボーイ 砥石 莞次 @or0ka_i6ion__
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