後編

「お迎えにあがりましたお姫様。どうか僕の国で結婚式を挙げましょう」

「それ以前にアナタは誰なんですかーっ!」

「僕はマショ国の王子、SNSでキミを見かけて追いかけてきたのさ」

「私はSNSなんて──って、まさか、あのときの写真かしら」

「お友だちがアップした写真で、僕の心はキミに夢中になったのさ」

「私は夢中にならないから、そのまま国にお帰りください」


 つい勢いで載せてもいいよって言ったのが失敗よ。

 魔性の力がこんなに強いとは思わなかったもの。

 あれ? 待って、写真でもダメとか、私は履歴書すら書けなくなるじゃないのぉ。


 これは就職するまでになんとかしないと……。

 はっ、そうよ、はる君に養ってもらえばいいのよ。

 だって私の心ははる君のものなんだからねっ。

 告白すらしてないけど……。



「はぁ、はぁ、やっと教室についたよ。とりあえず顔を隠しながら──」

「やっと追いついたよ。いきなり走り出すんだもん、追いかけるのが大変だったんだよ?」

「走るに決まってるでしょっ! あのままじゃ遅刻──って、えっ、どうしてはる君がここに」

「僕のこと下の名前で呼んでくれるんだね」


 うぅ、いきなりだからつい下の名前で呼んじゃったよぉ。

 あまり話したことないのに、馴れ馴れしい人とか思われたりしたよね?

 なんで『須賀君』って呼ばなかったのよぉ、私のばかぁぁぁぁぁ。


 恥ずかしすぎて顔が真っ赤になったじゃない。

 どうしよ……はる君の顔をまともに見られないよ。

 ううん、ダメよ、弱気になったらダメなんだからねっ。きっとこれは神様がくれたチャンス。


 だから、さっきの勢いで告白するしかないよ。うん、今日の私なら絶対にいける気がするもん。


「え、えっと、それは……。そ、そんなことより、私を追いかけてきたのはどうしてなのよっ。まさか、ストーカーだったりしないでしょうね?」


 ちっがーーーーう。

 言いたいことはそれじゃなーーーーい。

 なんで? どうして思ってもないことが口から出てくるのよ。確かにどうでもいい人たちには普通に使ってたけどさ。


 だからといって、はる君に言う言葉じゃないからぁぁぁぁぁ。


「舞星さんって機嫌が悪いのかな?」

「ち、違う、そんなことないよ。それよりも要件って何かな?」

「ほら、ハンカチ拾ったって言ったじゃない。それなのに、渡す前にいきなり走り出すんだもの。追いかけるの本当に大変だったんだからね」

「うぅ、あ、ありがと……」

「そういえば舞星さんって──」


 何よ、はる君はいったい何を言うつもりなの。

 待って、まさか本当に嫌われたりしてないよね?

 二度と顔見せるなとか言われたら……私の心は闇堕ちしちゃうんだからっ。


 落ち着きなさい、深呼吸で心を落ち着かせるのよ。

 そうすればこのむねのたかなりも収まるはず──わけないじゃない。そんなすぐに収まるなら警察なんていらないわよっ。


 と、とりあえず須賀君の話を聞かないとね。

 まずはそれからよ……。


「私がどうしたっていうのよ。別に誰になんて思われてようと、私は気にしないんだからねっ」

「ふふふ、やっぱり舞星さんって、笑顔がステキだよね。最初に見かけたときからずっと思ってたんだ」


 そんな不意打ちはずるいよ。

 頭の中が真っ白になっちゃうじゃない。

 もう、今の私はいったいどんな顔をしてるんだろ……。


「そんなこと言われたの初めてだから……」

「そっか、なんか得した気分だよ」

「きらら……私のことはきららって呼んでね。でないと、二度と口なんて聞かないんだからっ」

「わかったよ、きらら。あっ、そろそろ予鈴が鳴る頃だね。それじゃまたね」

「う、うん……」


 『またね』か……。

 そうよね、この学校にいるんだし、告白してくれるチャンスはあるんだからね。それに──今は『きらら』って呼んでくれたことだけで、私は大満足だよ。


 告白する勇気なんてない、告白される気配もない。

 だけど、私がはる君に抱く想いは決して変わらない。

 いつの日か、自分の気持ちを知ってもらえれば……。

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【短編】魔性の恋物語 朽木 昴 @prime1128

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