ep.2 正反対のすれ違い



「ふぅ〜ん。じゃああなたは誰も友達がいなくて、居場所もないからこんな体育館裏で遅いお昼ごはんを食べているのね」


「はっ、はひぃ」

 

 尋問をされるかのように、私のことを聞き出され最後の確認がトドメになり声が裏返ってしまった。

 こんな、私とは住む世界が違う陽の人間はすぐ興味が失せてどこかにいく。そう思った矢先。陽の人はなんの迷いもなく、私の隣に腰を下ろした。

 

 予想だにしない行動に、思わずブロッコリーを口に運んでいた箸が止まった。


「ふぅ〜」


 陽の人はため息のような憂鬱そうな息を吐き、奥にある木を眺めている。そのトガッている容姿とあぐらをかいて座っている姿を見ると、ただのヤンキーにしか見えない。怯えながらも、ブロッコリーをむしゃむしゃ。


 もしこの状況を第三者に見られたら、私がカツアゲされる寸前だと間違われるだろう。いや、間違っていないのか? 私にも、この状況がよくわからない。


 じぃーっと顔を見すぎたせいで、たまたまこっちを向いた陽の人と目があってしまった。


「あ、あのっ! ごめんなさい……」


 なにをされるかたまったものじゃないと、慌てて謝ったが眉間にシワを寄せている。どうやら許してくれないらしい。

 よっぽどのことじゃない限り、素直に謝ったら受け入れてくれる。それが私の謝罪、と言うものだと思ってたので覆された。目が合うのが、この陽の人にとってよっぽどのことなのかもしれない。


 陰と陽。正反対だということは文字から見て取れるが、ここまで価値観が違うのかと衝撃だ。

 目があっているまま、ずっと考えているせいで陽の人はまだか、と首を横に傾けた。これは……「はやくしないと手がでちゃうぞ!」という、隠されたメッセージ。


「ッ!!」


 一度も手を出されていないが、これは本気なのだと対象的な優しそうな瞳を見て感じた。

 

 弁当を地面に置き、その上に箸を置き、コンクリートでざらざらしている地面に正座する。痛いが、これもそれも全て私が許してもらうため。


 ビシッと背筋を伸ばし、両手を地面につけ頭を下げる。これこそ、私が知っている謝罪の最終奥義にして最大の謝罪……土下座!


「ご、ごめんなさい!!」


「え? 何やって……」


 顔を上げていないのでわからないけど、声を聞いて絶句してるのがわかった。


「本当にもう、絶対あんなことしません!」


「ちょっと何をいっているのかわからないんだけど……その、私あなたに土下座され謝らせるようなことした?」


「へっ? あの……私、陽の人が目があって不快に感じて怒ってると思ったんです……」


「陽の人?」


「はっ!?」


 せっかく怒っているのが私の勘違いだったかもしれなかったのに、やらかしてしまった。

 勝手に考えていた呼び名を勝手に使い、話す。さっき、目があったときは怒っていなかったようだけど、これはさすがに陽の人が怒るキッカケになりゆる。


 そんな時はまず謝罪!


「ちょちょちょ、なんでまた土下座しようとしてるの? そんな短期間で、更に同じ人にペコペコ頭を下げてたら薄っぺらい人だと思われるわよ?」


 核心を突かれることを言われ、片手を地面においている状況で停止してしまった。


 失礼なことをしても怒ってこず、逆に微笑んでくるので多分この人はいい人なんだと思う。容姿とは相反する優しい瞳を見たときに気づくべきだった。


「そういえば、あなたはさっき私のことを陽の人っていう変な呼び名で呼んでたけど、本名は七瀬優ななせゆう。今年からこの高校に入った、ピチピチの一年生。確か記憶の間違いじゃなければ、あなたと同じ2組よ? 気軽に七瀬でも優とでも何とでも呼んで?」


「七瀬……」


 初めてこの学校でまともに出会って聞いた人の名前。無意識に呟いていた。


「で、あなたはなんて名前? あなたのことをずっとあなたって呼ぶのはなんか居心地が悪いの」


「わ、私は皐月凜音さつきりおんです! その……怒ってないんですか?」


「怒るわけないじゃない。というか、私が怒ってるように見えたの?」


「いっ、いえ。全く見えないです。はい」


 慌てて否定したが、流石に無理があった。七瀬は嘘をついている私のことを咎めるように、むすっとした顔になった。


「そんな見え見えの嘘をついても無駄よ。いきなり土下座してきたり……。ねぇ皐月。そんなに私って恐れられるような人に見えるかしら?」


 突然名前を呼ばれ、ドキッとしちゃった。人と会話をすること自体久しぶりなので妙に緊張しちゃう。この鼓動の高鳴りは緊張のせい……だと思う。


「その……私も思ったんですけど、内面的なことよりどっちかというとその尖った容姿が問題なのかと思、う。話していて、七瀬はいい人だっていうのはわかった……から」 

 

 同級生、あと同じクラスだということを意識してタメ口で喋ってみたけどあんまり喋り方がしっくりこないで、カタコトになっちゃった。


「そうねぇ〜。私、普段から自分のことを鏡でなんかみたことないし、容姿云々のことはわからないのよね。まぁけど、皐月にいい人だっていう認定をもらえて嬉しかったわ」


「そ、それはどうも……」


 母性を感じさせる、にへぇ〜とほころんだ顔を目の当たりにして即座に目線をずらしてしまった。


「そうだ。皐月。ちょっと話したいことがあってここに来たんだけど」


「……なに?」


 思い出したように話しかけてきたので、思わずつばをのんだ。

 なんか喋ってて仲良くなり始めているけど、この人と私は正反対の人間。こんな、体育館の裏の階段なんて言う薄暗いところにわざわざ来た理由なんて事が知れている。


「その……ものすごく言いづらいんだけど……」


 何か言いづらいことが頭に浮かんでいるのか、言葉に詰まっている。


 やっぱりそうだ。これはやつなんだ。一人ぼっちになったらいつか矛先が向かってくると思ってたけど、いざ来るとなると胸が苦しくなる。


「あの……私はいじめられてもなんと思わないので、好きに思うがままにいじめてもいい、よ。それで七瀬の気が済むんなら」


「いやいじめるなんて、そんな物騒なことするわけ無いでしょ。私の恋人になってほしいだけよ」


「? それってどういうこと?」

 

 言いたい事の意図がわからない。七瀬がなにか都合が悪いのか、目をそらしてくるので余計わからない。


「皐月が私の彼女になってほしいってこと。いや、私が皐月の彼女になるっていうのもいいけど」


「……は?」


 間違いではない限り、私は今ドストレートに告白されている。予想外に予想外な展開にもう私の脳みそは限界値を超えている。

 ちらちら七瀬が乙女の顔を向け、私の様子を確認してくるのでこれは本心からなのか……な? 言わされてるってことは……七瀬が、と考えると否定的。


 っていうことはこの告白は……。


 友達0人の私に恋人立候補の七瀬。この突拍子もない言葉が、関係が、憂鬱な私の高校生活を大きく変化させるものになるなんてこのときの私は知る由もなかった。

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正反対の私たち でずな @Dezuna

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