幽雅な流刑地

夏伐

勇者と片角の魔王

「勇者ノア、この者、極悪非道に付き流刑を命じる」


 王さまが、ただの平民を恐れてそう口にした姿は後世に伝えたくなるくらいに面白かった。人類共通の敵――魔王。魔王を討伐した勇者。そして共通の敵がいなくなった時、人々が恐れたのはぼく勇者ノアだった。


 魔王討伐の証拠である魔王の角はぼくと聖女がそれぞれ国に持ち帰った。最終的には教会が封印を施すらしい。


 賢者と呼ばれた魔法使い。聖女と呼ばれた神官。剣聖と呼ばれた騎士。


 彼らはそれぞれの国に帰り、爵位をもらい平和を享受しているという。


 その間、ぼくは毒を盛られ暗殺されそうになり、そしてついには存在しない罪をでっちあげられて処刑を言い渡されていた。


 彼らとぼくの違いは、人の域を超えていたかどうか。


 ぼくと魔王は同じように種族から逸脱した存在として生まれたのだろうと戦いの中で気づいた。


 実際に死刑を言い渡され、絞首刑、斬首刑を体験したが、縄がしまっても死ぬことはなく、首を切ろうとした刃物やギロチンを皮膚がはじいた。


 魔王と戦うために生まれたとしか思えないこの体。


 もう後に引けなくなった王さまは、ついにぼくを最果ての島に追放することにしたのだ。その判決の間もぼくは王さまや貴族たちに逆らうことはしなかった。


 英雄だと称えてくれた民衆が石を投げてきてもぼくは地面を見つめていた。


 大人しく船に揺られて流刑地である果ての島に捨てられた。

 船が見えなくなった頃、ぼくは大きな声で名前を呼んだ。


「グロリア!」


 名前を呼ぶと島のどこからかピアノの音が聞こえる。


 ピアノの音に向かって歩いていくと、そこには角を折られた魔族が異国の音楽を奏でている。


「グロリア、久しぶり」


「ノア、久しぶり」


 ぼくは手土産に、彼女に角を渡した。収納魔法で亜空間にしまいこんでいたから魔法使いたちには気づかれることはなかった。ぼくが国に持ち帰った角は土魔法で作った偽物だった。


「追放されてしまったよ」


「ノアは、要領が悪い。次の魔王にだってなれたのに」


 グロリアは角を受け取り、自身に回復魔法をかけた。片角の魔王は、ぼくに微笑んだ。


「はみ出し者同士、この島で一緒に暮らそうよ、ノア」


「うん」


 彼女は魔族、ぼくは人族。種族は違えど、種族を越えた能力を持った飛び出た杭であるぼくらはまず手始めに一緒にピアノを弾いた。


「ノアもピアノなんて弾けるんだ」


「元々は貴族の跡取りだっただから。グロリアこそ、魔王城から持ち出したのがピアノなの?」


「これはあの城で数少ない、私のものだったの」


 文明の寂れた流刑地に、きれいなピアノの連弾が響いた。ここには、グロリアとぼくの他に誰もいない。

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