第4話 原作にはいなかった人
「はあ……」
今となってはもう諦めた。だってどうしようもないじゃないか。この世界は俺が読んでいた少女漫画の世界で、ストーリーは既に完結している。最終話に向かって決まった道筋を辿るだけのつまらない世界だ。異分子が紛れ込んでもそれはきっと変わらない。
俺は諦めた。だから、原作と全く同じ行動を取ることにした。やはり成り代わったといえ快斗は快斗なのか、自分で考えて行動したと思っていたはずが原作と同じだった、なんてことも数回ある。なんだか嫌な気分だが、もう慣れるしかない。
俺が生まれ変わったと気がつき、この世界は原作を忠実に再現するだけの世界だと気がついて数ヶ月。
俺たちは花の高校生、一年目の夏を迎えていた。
「ねぇ蒼、今度母さんに顔見せてあげて。母さんったら蒼のこと自分の息子だとでも思ってるみたいでさ、いっつも会いたがるの」
「あー、分かった。今日いく」
「今日? 今日は杏ちゃんが遊びに来てるんじゃないの?」
「杏も連れてく」
「え、ほんと!? やったぁ!」
「なんでお前が喜んでんだよ……」
美玲と蒼はクラスが違う。美玲と俺が2組で、蒼だけが4組。だから2人が話す時は大抵お昼の時間だ。
いつもと同じ屋上で、購買で買ったパンを齧りながら2人を眺める。俺も同空間にいるのに、1人だけ省かれたみたいで悲しい。
ちなみに、美玲と蒼は幼馴染らしい。でも蒼が家族の出張で他の県へ転校して、小学校からずっと会っていなかったんだとか。高校でようやく再会して、そこからストーリーが始まる……的な。まぁありきたりだな。
俺が1人悲しく拗ねていると、蒼がいきなり俺の方を向いて言った。
「快斗もくるか?」
「え?」
「それいいね! もうみんなでお泊まりとかしない? すっごい楽しそう!」
「ん、いいんじゃね。快斗はなんか用事あったりする感じ?」
「いやないけど……いいの? 俺も行って。その、杏ちゃんって子もくるんでしょ?」
「大丈夫大丈夫。そもそも杏が快斗に会いたがってるから」
「は? なんで?」
「知らね」
「知ってろよ」
「まぁまぁ、今日会って聞いてみればいいじゃん! いい子だし可愛くて美人だから絶対仲良くなれるよ!」
目を輝かせながら言う美玲に、俺は頷くしかなかった。美玲だけならまだしも蒼まで推して来るなんてどう言うことだろう。
一番怖いのは『杏ちゃん』とやら。そんな名前の人とは一度も会ったことがないはずだが、向こうは俺を知っているような口ぶりだ。
本当のことを言えば会いたくないし、これは原作のイベントでもないので行かなくたっていい。でも、その『杏ちゃん』とやらにちょっと興味が湧いたのだ。
蒼と親しくしていて、美玲とも仲がいい。それでいて原作には全く出てこなかった『杏ちゃん』を、一目見ようと思った。一種の好奇心が、俺の首を縦にふらせた。
「……じゃあ、お邪魔しようかな」
どうも、少女漫画の絶対に報われないチャラ系イケメンに成り代わりました。しんどい。 消息不明 @humei
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