第3話 モブになればよかったのかな
とにかく原作通りに行動すれば、ストーリーも進むし二人のイチャイチャも見れるしでいいことづくめだと思っていた。けれど、俺が原作通りに美玲を好きになって仕舞えば話は変わってくる。
「なぁ美玲、この映画知ってる?」
「あ、それ花乃が面白いっていってたやつだ! しってる!」
「チケット貰ったから、今週末一緒に行こ?」
「いいの!? ありがとう、蒼も誘っていい?」
「それがチケット二人分しかないんだよね〜。だから、」
「じゃあ蒼と二人で行ってきていいよ! 花乃、もう一回見たいって言ってたし」
原作通りに美玲をデートに誘う。だが最初の難関である鈍感さにより蒼と言ってこいと言われた。これは酷い。漫画でも見たが、本当に酷い。ここまでして気がついてくれないのか。
読者であった俺はこのあとの展開をもちろん知っている。二人で映画に行くが、快斗が飲み物を買いに行っている間に美玲がナンパにあう。それを助けて美玲に意識をしてもらうのが今回のイベント。
だが、欲張りな俺はそれだけで終わらせたくない。原作を知っているなら、それと違う行動をする、もしくは蒼の行動を蒼の前にすることで好感度を上げることだってできる。これが、俺が美玲を好きになった弊害だ。
原作通りに進めたい気持ちと、好きな女の子と結ばれたい気持ちがせめぎ合う。結局は心までこの世界に操作されているかもしれないと考えると胸糞悪い。
本当は好きになりたくなかったし、なるとも思っていなかったのに。この恋心すら俺のものでなく世界によって定められたものであるならば、俺はストーリーも何もかもを投げ出して逃げ出すだろう。人を好きになる自由くらいは俺にだって欲しい。
そんなことを考えているうちに、俺は気がついた。
俺、美玲のどんなところが好きか分からない。
笑顔だとか仕草だとか、もっと言えば顔だとか。好きならば好きなりに理由があるはずなのに、そのはずなのに。
どれだけ問うても浮かばない。目の前で俺を見上げる美玲の、好きなところが見えてこない。
理解してからすぐ吐き気が襲ってきた。顔色が悪いと心配そうな声をかけてくる美玲の横をすり抜け、男子トイレへ駆け込む。個室の鍵を閉める暇もなく便器の前にうずくまる。
やっぱり、この世界は忠実に少女漫画を再現しようと必死なのだ。そしてこの世界は俺が転生者であると知らない。知っていたら心まで操るなんて真似はしないだろうから。
ああ、嫌なことに気がついてしまった。しらなきゃよかった、気がつきたくなかったなんて今更遅いけれど願ってしまう。
なんて酷い世界なのだろう。ヒロインとヒーローが結ばれるためなら、心を操ってまでそれを叶えようとする。二人の陰で泣く人間が何人いようと関係ないのだろう。この世界はあの二人が主人公で、あの二人を中心に回っているから。
いつの間にか涙が流れていた。転生して、容姿もよくて、頭もよくて、なんでもできて。今度こそは好きな人と結婚して長生きしようって思っていたのに。
どうして俺は、あの二人のせいで不幸せにならなきゃいけないんだ。
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