第2話 絶対選ばれないって、もう知ってるんだよ
少女漫画の世界に転生した。そう気がついてから、俺は一つの悩みを抱えることとなった。
俺はこの漫画の主要キャラとして描かれている。原作の快斗は、美玲と蒼がくっつく障壁として立ちはだかることもあれば、手助けをして距離を縮めるサポートもした。
二人が幸せになる最終話へ向けて多大な貢献をするキャラなのだ。
だが、原作とは違いこの世界にいるのは転生してきた一般人であり本物の快斗ではない。
快斗の真似をして二人を手伝えばいいのだと最初は思っていた。でも、二人や他のキャラたちと関わる中で一つの感情が芽生えた。
「……好きだなぁ」
本物の快斗と同じ。でも今の俺には邪魔でしかない感情。
好きになるつもりなんてなかった。そんな感情はこの世界では邪魔にしかならないから。だって、俺は知ってしまっている。
どれだけアプローチしようが弱みに漬け込もうが、ヒロインはヒーローと結ばれハッピーエンドを迎える。
努力しても無駄、期待しても無駄、希望なんて抱く暇もなくストーリーは進捗していく。この世界はそう作られているのだ。
それを確かめたのは、少女漫画としては序盤のイベントである快斗……俺の登場シーン。本来なら廊下で騒いでいた快斗が美玲の友達にぶつかる、という場面が快斗の初登場。
だが俺は、ここが本当に漫画の世界なのか、それとも似ているだけの別世界なのかを確かめるために実験をした。廊下で友達と一緒に遊ぶまでは同じだが、原作と変えたのは俺の立ち位置。壁に背中をつけてもたれてしまえば、俺がぶつかる可能性は低いだろうと考えたのだ。
……だが。
この世界にとって、『快斗』はそれほど必要な人物らしい。
なんと、俺が壁にもたれて投げ出していた足に美玲の友達が引っかかったのだ。
……いや、弁解させてくれ。俺はきちんと壁際にいた。だが、教室の扉の前でたむろしていたのが悪かったらしい。
たまたま真前の扉から男子の集団が出てきており、必然的に美玲たちは壁際へ寄ってきた。移動教室へ向かう途中だったからか手には数冊の分厚い教科書が乗り、足元がよく見えていなかったのだろう。
俺の足が長いばっかりに……なんてふざけている場合でもなかった。まさか引っかかるなんて思ってもみなかったから、咄嗟の声も出ず固まってしまった。
そこから、むっとしたヒロインとの初コンタクトを果たした俺は、原作と全く同じ展開が起きていると気がついた。
俺一人が違う行動をしようが関係ないらしい。修正力、というやつだろうか。この世界だって生きているのに、見えない何者かに操作されているようで気持ち悪いな。
と、そんなこんなで。俺がどう介入しようがしまいがストーリーは変わらないと分かった。
なら俺はどうするか、そんなの選択肢は一つしかないようなものだった。
好きな漫画のキャラに転生したならば、少女漫画好きとしてヒロインとヒーローの恋模様を間近で眺めたい。そう願うのは至極当然のことだとう。
二人に接近するための手段はもう持っている。原作の快斗を真似すればいい。そうすれば二人の進展の手伝いもできるし、一番近い距離から眺めることだってできる。
最高のポジションだと最初は思っていた。
でも、好きになってしまうなんて夢にも思わなかったのだ。
どれだけアピールしても選んでもらえないと分かりきっているのが、こんなにも辛いと思わなかったのだ。
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