【短編978文字】コラムニスト『3分で星新一のようなショートを読んでみませんか?』

ツネワタ

第1話

 ある朝、新聞のコラムに目を通すと面白い記事が載っていた。


 どうやらコラムニストの寝言を本人が眠っている間に録音したモノらしい。


 彼は多重人格のようで、寝ている間に人格同士が会話をするのだという。

 驚いた事にこの記事は主人格には内緒で他人格が投稿しているそうだ。



 おまけに自分が多重人格だという事を本人は知らないらしい。



『この酔っ払いが! いつも飲んだくれて恥ずかしくないのかッ?』

 ▼あぁ? 心配ない。俺は明日になればシラフに戻る。

 ▼だけどお前はマヌケのままだ。



『夢ばかり見てんじゃねぇ! 理想だけ追いかけて恥ずかしくないのかッ?』

 ▼あぁ? 心配ない。俺はそのうち現実に気付く。

 ▼だけどお前は夢も見れない不眠症のままだ。



『周りに対してゴマすりばかりしやがってッ! 自分を下げて恥ずかしくないのかッ?』

 ▼あぁ? 心配ない。俺が人を褒めれば、明日は俺が人から褒められる。

 ▼だけどお前は昨日のお前のままだ。



『家族も持たずに独りでフラフラしやがってッ! 売れ残って恥ずかしくないのか?』

 ▼あぁ? 心配ない。俺は自分を孤独だと思った事はない。

 ▼だけどお前はこれからも『独り』と『一人』を履き違えたままだ。



『恥の多い人生ばかり歩みやがってッ! 後悔って言葉を知らないのかッ?』

 ▼あぁ? 心配ない。俺には失敗話をアテに笑いながら酒を飲める友がいる。

 ▼だけどお前は『人生に後悔がないと、人生を後悔する』事を知らないままだ。



『絵本の中の主人公でもあるまいしッ! 世の中そんなに甘くねえぞッ?』

 ▼あぁ? 心配ない。俺は絵本の中にいつまでも留まるつもりはない。

 ▼だけどお前はかつて幼い自分に絵本を読み聞かせてくれた人の優しさを忘れたままだ。



『お前の人生は二部構成。一日目は喜劇で続き、二日目は悲劇で幕を閉じる』

 ▼あぁ? 心配ない。俺がお前のためにキチンと二日分のチケットを取っておく。

 ▼だけどお前に渡すのは一日目のチケットだけだ。



 記事はここで終了している。大変興味深いモノだった。

 おっと。そろそろ出社の時間だ。にしても最近寝起きはやけに喉が渇いている。

 男は水を一杯あおると、スーツに着替え、急いで家を出た。しかし――。


「あれ? 今日は日曜日か? 最近曜日感覚が狂ってきてるなぁ……」


 男はトボトボと家に戻り、スーツを脱いでまたくつろぎ始める。

 彼女もいない男は「酒でも飲むか……」と朝なのに冷蔵庫から缶ビールを取り出した。

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【短編978文字】コラムニスト『3分で星新一のようなショートを読んでみませんか?』 ツネワタ @tsunewata0816

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