第参話 餌を求めて
焼き肉屋丑角。従業員専用の裏口前で話す男2人。日焼けのマッチョ虎千代と、肌白メガネの少年牛若。
「なるほど。やっぱりアンプルが出回ってたのか。そうなると事態は想像以上に深刻だな」
「ああ、悪ガキどもにも行き渡ってるとなると、かなりやべぇ。今回出てきたのは1つだけだった。幸い、使われる前にとっちめれたのは良かったがな」
「ボクもこの前1人処理するハメになった。ウチの警護隊だけで対処しきれなくなってきた」
「何処でだ?」
「ウチのシマだよ。全く、偶然なのか、わかりやすい挑発なのか」
「挑発ってのはねぇな。奴ら、全部のシマにケンカ吹っかけてるみてぇだし。恐らく、コントロールする気なんかなくて、ただ単に摩天楼をパニックにしてぇだけなんかもな」
摩天楼内で起こる不審な事件について、ある程度犯人に目星をつけている2人だったが、摩天楼全体を巻き込む規模に膨れ上がったソレは、2人だけの手に負えなくなっていた。
「そういや、あの子。リンだったっけ?」
「あー、お前が気に入ったあの子か」
「茶化すな。ボクのことを話したということは、彼女も関係者なんだろ?」
「違うとも言えないけど、そうとも言えないな。なんにせよ、記憶がねぇんじゃ可哀想だし。あの現場に偶然とはいえいちゃってたし。あの力は普通じゃねぇし」
虎千代が特に気にしていたのは、リンの脚力であった。普通50人くらいのソレなりに体格の良い男性をバッタバッタと倒せるのは普通じゃない。確実に12氏族レベルだ。
「でも、午家(うまけ)にはそんな奴いなかったろ?」
「ああ。あの人が隠し子作るってこじつけるのも無理がある。でもよ、あの感じはな…」
「お前が違和感を感じてるのはわかるが、ボクは直接彼女の戦いを見ていない。でも、午家に関わることならば、ボクも丑家の当主として放っておく事はできない。なにかあればボクも手伝おう」
「すまん。また迷惑かける」
「今更だ」
そこには確かな友情があった。共に戦場を潜り抜けてきた戦士同士のようなものが。
2人が店内に戻ろうとすると、
「助けてくれぇぇぇぇ!!じ、人狼が出たぁぁぁぁぁぁ!!」
男性が血相を変えて走り去る様子を見て、2人はその方角へと走り出した。
摩天楼ヲ駆ケル 信虎 @nobu_Tora55
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