第弐話 摩天楼
「んで、教えてよ。12氏族のこと」
4人がけの焼き肉用テーブルに座る3人。
リン。女。黒髪で、白めの肌。なぜか黒井セーラー服着用。2人がけのソファの真ん中に座り態度がでかい。
「なんだ?意外と興味深々だな。さては真面目ちゃんかお前?」
虎千代。褐色の肌。高身長マッチョ。茶髪。チャラそう。
「アニキ。からかってやるなよ。外地から来たんなら、ここのこと全然わかんないんだし」
ミケ。多分あだ名。金髪。色白細マッチョに片足突っ込んだくらいのやつ。虎千代よりチャラそう。
「変態野郎に聞いてない」
リンは、明らかに嫌悪感を示した後、目線は目の前のよく焼けたカルビ肉へと移った。
「だっはははは!!悪りぃなオレの弟分が見られたくねぇもん見ちまったみたいでよぉ。まぁ、なんだ、詫びってのもあるが、メシ代はオレらが払うからさ。機嫌直してやってくれ」
陽気な顔をする虎千代とは真逆に、納得してないミケだった。
「そういうことなら、許してやろう。虎千代とワタシに感謝するんだぞミケ」
勝ち誇った顔をミケに見せつけると彼女は話題を戻すことにした。
「んで、何?12氏族って。ワタシの蹴り食らっても平気な顔してるなんて、わけわかんない」
虎千代が肉と米を食す手を止め、語り始めた。
「12氏族ってのは、元々世界救った12人の英傑から始まったんだってよ。オレもオヤジとかから聞いた話の受け売りなんだけどよ。元々この星は、龍によって滅ぼされて、新たな人類が生まれた。そのオレらのご先祖様に当たる人たちがその龍をぶっ倒して、荒地ばっかだったこの星に、摩天楼っていう拠点を作った。」
リンは不思議そうに聞いていたが、あまりにもおとぎ話のような内容だと疑っていた。
「ちょっとファンタジーすぎない?」
「オレも聞いた時はそう思った」
「ミケはしゃしゃり出て来ないで」
「まあまあ、そんなカリカリしなさんな。とにかく、オレら12氏族以外はおとぎ話と思ってる奴らも少なくない。そもそもこの摩天楼を維持する為のシステムは、その時に倒した龍の力が関わってんだ」
リンは興味を取り戻し、再び虎千代へ疑問をぶつけ始めた。
「龍の力ってことは、倒したってのは、命までは奪ってない?」
「いや、伝承では絶命させたと伝わってる。子(ねずみ)一族の開祖がやったってことまでな」
「じゃあ子の一族が一番強いか、偉いってこと?」
「それも違うな。開祖さんたちも初めは仲が悪いどころか、しょっちゅうケンカしてたみてぇだしな。まあ、それは今も変わらねぇんだけど…」
「へぇー、大変そうね虎千代も。それより摩天楼維持するシステムって、具体的に龍の何をどうしたの?」
「それよりってなぁ…ま、リンには関係ねぇか。龍は文明をリセットできる程の力を持ってたわけなんだが、特に強かったのは牙、角、爪、尻尾だったんだとよ。それを東西南北にある制御装置、四獣システムに使用してる。東に角、西に牙、南に爪、北に尻尾が収められてるとよ」
「なんか複雑な構造なのは分かった。あと、ここの近くにある大きい塔は何?見た感じ摩天楼のちょうど真ん中って感じだけど」
「ソイツが四獣システムの橋渡しをしてるメインシステム。俺たちは黄龍(きりゅう)システムって呼んでる。四獣システムも、部位になぞられた獣の名前を冠してる。東が青龍、西が朱雀、南が白虎、北が玄武ってな。龍に滅ぼされる前の文明の名残でそう言ってるらしい。誰が呼び始めたのかわかんねぇけど」
一通りの話を聴くと、リンは再び興味を失ったかの如く目の前にある肉を食い始めた。するとそれまで黙々と肉を食べていたミケが口を開いた。
「お前についても聞かせてくれよリン。生まれ育ちとか、ここに来た理由とかさ」
「覚えてない」
「へ?」
ミケも虎千代も豆鉄砲を食らったように肉を食べる手を止めた。
「え?覚えてないのか?逆に覚えてることってなんだよ?」
「おいミケ、なんも覚えてねぇから言ってんじゃねぇか?」
「いや、名前は覚えてるし、それにこんだけアニキが説明してくれてんだからそれぐらいはいいだろ。肉の分とは別にさ」
「ワタシが覚えてること…ね。この名前と、お父さんを探しに来たことと、アト…」
リンはぼんやりとした記憶を辿る。荒野の街。発展途上で、物資運搬をする車が行き交っている。その一台が、制御を失う。
「あの時たしか、白い奴の運転…シタ、クルマニが突っ込んキテ…ヨケキレナクテ…」
リンはどんどん歯切れが悪くなり、カタコトのよあな喋り方を続けた。
「ワタシ、イチ…ネンマエ…に…ソコデ…ニゲキレナクテ…ハァ…ハァ…ア、ア、ア」
「もういい、大丈夫だ」
酷くなるリンの容体を案じて、躊躇することなく虎千代の腕は優しく彼女を包んでいた。
「怖いか?」
「ナンカ怖い。忘れたコトが、トテモ痛かったンダとオモウ…」
「辛えことは一旦忘れちまえ、どんなに辛いことでも、時間を費やせばいずれ笑えるようになる。だから、そうだな、とりあえず肉食え肉!美味いモン食えば気も紛れる。オレもミケも、嫌なことあったらここに来て、肉食って忘れて、次の日また頑張んのよ。悪い事を忘れてなくても、元気に笑えるようにな」
「アニキ…」
リンは涙ぐんでいたが、虎千代の介抱もあってたか少し落ち着いてきたようだったが、
「おーい馬鹿虎。食い放題で元取れるまで食いまくるのは千歩譲って許してやらんくもないが、店内で女とイチャつくんなら出禁にすんぞー」
注文した肉を盛り付けた皿を片手に持ち、呆れた顔で声をかける青年に片足突っ込んだ少年が言った。黒い髪、黒縁のメガネ、身長は150センチ半ばといったところだ。
慌てて虎千代はミケの居る側の席へと戻った。
「牛若(うしわか)これは、違うんだ」
「何が違うだ、女の子が泣いてて後ろから手ぇ回して口説いてたんだろが。ウチはカップル割なんてやってねぇし、死んでもやらねぇよ」
「ごめん。アタシが何か、体調悪くなって介抱してもらってただけなんだ店員さん」
「あっ、えと、それは失礼致しました。よろしければ新しいお水をお持ちしましょうかお客様」
「まだピッチャーに残ってるから大丈夫。ありがとう定員さん。気を遣ってくれて」
牛若という少年は動揺を隠すかの様に、運んできた注文の皿をテーブルに置いた。
「あー、リン。一応コイツはオレたちの知り合いで、牛若丸っていうんだ。家とかメシとか色々世話になってる。あとはオレと同じ12氏族だったりする」
「おい!それはあんまり口に出すな。丑家の管轄ってのはみんな知ってるけど、ボクが当主なのは秘密なんだぞ」
「あはは、わりぃわりぃ」
「へぇー、牛若丸って偉いんだ」
「あっ、えっと、その、こんなナリしてますが、一応当主です。リンさんもなるべくこのことは秘密にして下さい、サービスしますんで。あと、牛若で大丈夫です」
(あのカタブツがデレてやがる)
(あのカタブツがデレてやがる)
リンの容体も良くなり、少し笑みをみせるほどになった。牛若が席を後にしようとすると、
「あ、すまん牛若。ちょっと時間いいか。仕事についてなんだが」
「む、わかった。着いてきてくれ」
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