【5分で読書】無血解決? 武力探偵っ!!
タカナシ
「武力探偵 現る!」
「きゃあああああっ!!」
女性の叫び声が聞こえ、僕と親友の探偵、
死体だというのは、その出血量を見れば一目同然で床一面が血だまりとなっていた。
「あ、あ、あ、あれっ!」
女性が指さす先には壁に血文字で、
『魔女の鉄槌は下された。罪人共に許しはないっ!』
罪人共に何か心当たりがあるのだろう。女性の顔色は真っ青だ。
「皆落ち着け! 俺は探偵だ。この事件の犯人は俺がすぐに突き止める。安心してくれ。まずは居間に集まるぞ」
親友の武の提案にその場に居合わせた人物たちは同意した。
武は僕と違って見た目にも筋骨隆々で堂々としていて、妙な説得力というか求心力というか、そういう魅力にあふれていた。
そんな武の言葉だから、誰も逆らわず従ったのだろう。
僕も死体にかなり動揺していたので、こうして率先してくれるのは助かる。
それから、温かいココアを飲んでそれぞれ落ち着くと、僕は探偵と共に居た責務として、それぞれにアリバイとか、どうしてここに来たか、被害者との関係などを聞き取りしていく。
この旅館に僕たちは偶然居合わせただけなのだけど、どうやら、他の客たちはそうではないようだ。なんでも昔ここで亡くなった人の関係者で集まろうとかそういう感じらしい。
犯人を捕まえる上で必要な情報だと僕はメモに書き込むけど、武には「必要ないぞ」と一蹴されてしまった。
そういえば、武が探偵で活躍しているのは知っているけどこうして事件に一緒に出会うのは初めてだ。
いったいどんな推理をするのだろうか?
ホームズのように可能性を消していって残ったものから犯人を見つけるのか? もしくは明智小五郎のように犯人の動機から?
もしくは、何かしらのトリックが使われていたら、それを看破してかな?
不謹慎だけど、少しだけわくわくしていると、なぜか武は自分のカバンからロープを何本も用意しているんだけど、何に使うんだろう?
そんな僕の疑問を置いてけぼりにして武は口を開いた。
「さて、まずは警察に連絡を入れたんだが、なんでも土砂崩れが起きて、2日程足止めをされるようだ」
「そ、そんな……」
青っチョロい男が情けない声を上げる。
「いや、そう悲観することはない。そのおかげで、犯人はこの中の誰かだということになる訳だしな」
武はその場に集まった人物を見る。
なぜかその目は誰に対しても犯人を見るような目だ。
旅館の女主人、悲鳴を上げた女性、青っチョロい男、中肉中背の男、モデル級にキレイな女性。
以上五人に僕と武の計七人がこの旅館に閉じ込められたことになる。
「ふむ。これなら、5分もあれば解決できるな」
「え、本当に? すごい!!」
「ああ、一人一分だな。たぶん、いける!」
武は全員椅子に座ってもらうと、おもむろに背後へと回った。
そして、全員の首筋へ手刀を当て、意識を刈り取る。
さらにその体をロープで椅子に括り付け。
「ふぅ、これで誰も殺しはできないっ! つまり連続殺人は解決したな! 5分で解決っ☆」
「なにその解決方法っ!! いや、確かに誰も死ななくなったかもしれないけどっ! いやいや、犯人も分かってないし、警察が来るまで2日間もあるんだよ。その間、どうするのさ」
僕からそう言われて、なにが不満なんだと言わんがごとく不機嫌そうな顔をするけど、普通に全部が不満だよね!
でも、このときの僕の行動を今では後悔している。
まさか、この先にあんな惨劇が待っているだなんて……。
※
「う、う~ん」
青っチョロい男が最後に目を覚ます。
「な、なんなんだよ、これっ!!」
体をぎしぎしと動かすが、その程度で抜けられるような甘い縛りはしていないっ!
「ぼくたちを拘束してどうするつもりなんだ? も、もしかして、お前らが犯人?」
「いや、そんな訳ないだろ。それなら、今とっくに全員殺している」
男はきょろきょろと周囲を見渡す。誰も死んでいない様子を確かめ、安堵したようであった。
「これが普通の反応だからなっ!!」
「死ぬよりはマシだろうに? 今まで感謝しかされたことないぞ。生きててよかったって」
「それ、本当に武に言ってるの? 警察に武から生き残れて良かったって言ってたんじゃ……」
椅子に縛られた方々からは無言の賛成を貰えた気がした。
「まぁ、それはあとで推理するとしよう。とにかく今は犯人探しだな」
「せっかく全員拘束しているし、荷物でも調べるの?」
そう聞きながら振り向くと、武は青っちょろい男の椅子を掴み、別室に連れていく。
「何してんのっ!?」
僕は慌てて武を追いかけると、別室では、尋問が始まっていた、
「さっさと吐け! お前が犯人だろう。黙っていると」
武は拳を握り込む。
「いやいや、待てって。それっ暴力だろ。探偵なのに、自白強要なの? しかもなんで、その人? なにか理由が?」
「いや、全員にやるつもりだった。ついでに誰も口を割らなければ次はお前だからな」
「友達にも容赦しないスタイルっ!! 探偵としては立派だけど、人間としてダメでしょ!」
「人殺しする奴の方が人間としてダメだろ」
「うわっ! 普通に正論でかえされたっ!!」
とりあえず、その後、青っチョロい男は犯行を認めることなく、思いっきり武にぶん殴られた。
武が言うには顔の正面から殴られるのは相当な恐怖みたいで、現代日本でそれに耐性があるのは格闘家くらいで、それ以外なら、ほぼどんな犯人でも口を割るらしい。
「さて、もう一発!」
「ほんとうに、ぼくはやっていない。わぁぁぁっ!!」
ピタリと寸止めされた拳。
「ふむ。自白しないか。なら次だな」
ここまで約5分。
今度は武は旅館の女主人を別室に連れ込み、同じ尋問をする。
ミステリーの鉄板なら、この女主人が犯人だけど。
一応女性に対しては平手打ちだったけど。
ごめんなさい。僕には止めるすべはないです。
いや、これでも一応ね。一回は止めたんだよ。そしたら、現在、僕も椅子に縛られてるんだよね。
女主人も先ほどの男性と同じような反応だったけど、過去にこの旅館で死んだ人は、他の四人の人たちと一緒に来た女性で手首を切って自殺していたそうだ。
警察は自殺と断定したけれど、きっと今回の犯人は自殺だと思っていないのではないかと言う。
「それなら犯人はベタだと、その女性の恋人とかかな?」
「先入観は犯人逮捕を遠ざける。俺は男女平等。どっちも殴って行く!」
なんだろう。凄くまともなことを言っている気がするんだけど、腑に落ちないなぁ。
それから全員を順番に呼び込んだけれど、誰も口を割らなかった。
ただ、女性たちからは、散々人でなしだの、鬼だの言われてから一発殴り、さらに問い詰めると、その自殺した女性は中肉中背の男性と付き合っていたという証言や、実はモデル級の女性がイジメていて思い悩んでいたことが語られた。
うん、こういうのって普通物語終盤に分かるヤツだよね。
かなりのスピードなんだけど。
そして、当の中肉中背の男は悔しさに涙を流しながら、もし本当に殺したやつがいるなら自分が殺していると。
そして、当時の状況をとつとつと話し始めたが、その途中で武によって殴られ気絶した。
「ええっ!! 今のすごく重要な話じゃなかった!?」
「いや、今回の犯人には関係なさそうだったから」
「いやいや、めちゃくちゃ関係ありそうだったけどっ!?」
「さて、残すは……」
あれ? ちょっと待って。ということは次は僕?
「いや、僕じゃないからな。こっち見んなっ!! やめろって! 本当マジで友達やめるからなっ!!」
ばたばたと暴れるけれど、意外なことに武は僕の縄をほどく。
「犯人が分かった」
「ええっ! 今までのところで、そんな描写あった!?」
そうして武は居間に戻ると、
「犯人は――」
拳を高らかに掲げ、
「お前だっ!!」
青っチョロい男に拳が注がれる。
「アダッパァ!!」
「ええっ! いきなり何してんの! ちゃんと謝らないとっ!!」
僕は倒れた男性を抱え起こすけど、
「くっ、なぜぼくが犯人だとわかった?」
「ええっ!? 当たりなのっ!!」
「いや、殴った感触が一番気持ち悪かった」
「そんな理由で!?」
「それと、一人だけやっていないしか言わなかった。普通、殴られたくないなら、それなりの情報を出すのが人の性だし。本当になんの情報もなければ俺を罵ったりするだろう。それすらなかったのは情報を出せば自分に辿り着いてしまうと思う犯人だし、罵って目を付けられたらやっかいだと思うのも犯人の特徴だ」
「ゆ、許せなかったんだ。彼女を死に追いやった奴らが。それに、守ると言っていたのにむざむざと自殺させた、こいつが――」
ぼんっ!
そこでさらに武の一撃が入り、沈黙する。
「あ、すまん、なんか喋ってたか? 犯人は無力化が基本だからつい」
「すでに無力化してたけどね。椅子に縛られた時点で。でも今のはいいタイミングだったと思うよ」
こうして、僕が武力と初めて遭遇した殺人事件は幕を閉じた。
二日後、警察が来て真っ先に5分で武が危険人物として拘束されたのは言うまでもない。
うん、安全のため、一応、まだ全員椅子に縛っておくとか狂気の沙汰だもんね。確かに人は誰も死ななかったけどさ。
【5分で読書】無血解決? 武力探偵っ!! タカナシ @takanashi30
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