名画ばっか食ってるから名画になるんだよ
硝水
第1話
気に入りのカフェのテラス席でモーニングのコーヒーを啜っているとなんかめちゃくちゃキラキラした光が辺りを包んだ。
「あなたにお告げがあります」
そう言ったのは狭い通りで窮屈そうに羽根を折り畳もうと苦心している大天使ガブリエルで、私は一瞬にして全てを悟る。お告げとかではなくもう、経験則から。
「うわっお願い受胎告知だけはやめて!」
「しかしもう宿っちゃってるので……」
「あー聞こえません聞こえません」
ポケットからライターを取り出し、着火してガブリエルに投げつける。油絵だからよく燃える。鞄から手鏡とペイティングナイフを探り出し、マリアになってしまっている顔を削って盛り直し、元の顔へ戻す。目を直すときに何も見えないのが困る。とりあえずマリアっぽくはなくなったところで妥協し、灰になったガブリエルに手を合わせた。
気を取り直して皿からトーストを拾い上げようとすると、よく見たらそれはなんか子供っぽく、あ、サトゥルヌスの子だ、じゃあ私今サトゥルヌスだ、と薄目でテーブルに置きっぱなしだった手鏡を見ながらため息を吐く。ガブリエルのように燃やしてしまっては朝ごはんも燃えてしまうので、私はひとつ大きな決心をすることにした。手を合わせる。ガブリエルの灰に対して行ったそれとこれとは、違う意味を持つようで大体同じだということを概念的に理解している。
我が子を両手で持ち上げ、眠っているように力ないその小さな頭蓋を口の中に押し込む。しばらくそのまま目を見開き固まる。もういいだろうとその、いちごジャムトーストを噛み千切った。
名画ばっか食ってるから名画になるんだよ 硝水 @yata3desu
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