精進

 クイズの道を歩き始めて3日経ったが、まるで進歩がみられていない。部活では明確な勝敗を賭けて戦ったわけではなかったが俺が劣っているのは明白で、これではいけないと思ってクイズに割く時間を増やすことにした。


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 宿題はあらかた片付けてあったので、学習時間は貸してもらった問題集を読むことにした。

 読み進めていきながらすぐに解る問題には○を、ある程度読み進めてから答えられた問題には△を、そして全く知らない問題には×をつけてることにしたが……書き込むわけにはいかないと思い、寮監室のコピー機で印刷させてもらうことにした。今は学習時間中なので、参考書に見せかける偽装は怠らない。


 第1部は雑多なジャンルを扱っていた。しかしながら、1問目に俺は強いテーマ性のようなものを感じた。


 ※以下、問題文中のスラッシュはボタンを押して解答に至ったタイミングを表すものとする。


 ――アルファベットの『Q』『U』『I』『Z』のうち、元素記号に/使われていないものはどれでしょう?――


 クイズ大会の1問目として、これ以上に良いものがあるだろうか。「元素記号では『J』と『Q』は使われていない」という事実を知ってたらメチャクチャ有利だけど、周期表を頭に思い浮かべて導いてもいいし当てずっぽうでもいいから気楽に楽しめよ――――という出題者からのメッセージが伝わってくる気がする。


 でも……当たらなきゃ楽しくないんだから、結局のところガチになるしかないんだ。



 耳で拾ったシグナルをすぐに神経へ流して即座に脳で処理する。そして脳から運動神経を経由して指を動かす。この経路がスムーズに動いてほしいけれども、身体的なものは慣れていくほかにどうしようもないから、知識量でカバーして処理を早くしていくしかない。……かといって、あれこれ手を広げて全てを体得できるほど要領も良くない。それどころか興味のない分野の吸収効率は常人のそれよりも劣る。


 誰も知らないような人物の名前を細切れに覚えたとして、果たしてなんの役に立つだろうか――といった雑念も交じってくる。それでも勝ちたければ四の五の言わずに満遍なく、かつ深く理解していくしかない。


            *


 ちょっと騒がしくなったかと思えば、学習時間の中休みに入っていた。調子がいいので気にせず勉強を続けることにする。



 第2部は語源問題だけが出題されたようだ。出題されなかったストックを含めるとかなりの問題数になる。シンプルであるがゆえに、純粋に知識の差が結果に直結する戦いだったことだろう。


 その1問目――『フランス語で「稲/妻」と言う意味の、表面をチョコレートでコーティングした菓子は何でしょう?』――


 ああ、忘れもしない問題だ。誰もが知っている有名な菓子で、その見た目からは思いもよらないような意味を持ち合わせた名前……。とてもいい問題ではなかろうか。


 他にも。例えば「カピバラ」「ビュッフェ」など、どこかで聞いたことのあるような一般名詞から国名や元素の名前等々……、その意味にはすぐに納得できるものもあれば思いもよらなかった物もある。

 英語やフランス語などのメジャーな言語から聞いたことのないような言語まで、由来も様々。もはや日本語と同化しているように思えるものもあり、日本語の奥深さを感じる。


 それにしても膨大な問題数だ。とても今夜だけでは覚えきれる量ではない。

 気づけばもう11時半だ。宿題は済ませてあるとはいえ明日も英単語のテストなどやることは多い。ノータッチで学校に行くわけにもいかないから、ヤバそうな教科だけ目を通して寝ることにした。


 部屋に戻ると、俺の相部屋の坂井がいびきをかきながら眠っていた。内進生ということで3年も寮に住んでいると、寮監の行動パターンの隙をつけるようになったのだろうか。

 恋愛談義と下ネタが大好物ということで、俺はこいつをやや苦手としているのだが、学習時間に堂々と自室で寝られる大胆さは見習いたいところだ。

 それはともかくとして、こいつは寝ているときに起こすと機嫌がものすごく悪い。自分から起こしてくれと頼んだ場合も変わらずだ……。ということで、俺は忍び足で寝床に就いた。


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 問題集を読んでいて気付いたことだが、出題には傾向がある。傾向というよりテンプレートがあると言った方が適切かもしれないが、俺はそれが3つに大別できるのではないかと思った。


 まず、ストレートに答えたらよいもの。

 次に「○○は□ですが、××は何でしょう」といったパターン。いわゆる「パラレル問題」だ。

 最後に、「~は○○、□□、あと一つは?」というもの。「一富士二鷹三茄子」や「夏の大三角」のような三名数にありがちなパターンだ。

 

 その傾向を頭に入れつつ、これまでに俺がボタンを押してきたタイミングを回顧してみると、取りこぼしが目立っているように思えた。

 パラレル問題を判別するのが初心者に難しいのは言うまでもないことだが、案外、後の2つの区別がつきにくい。じっくり聞いたらなんてことはないのに、スピードが命ということで生じる焦りが判断を狂わせる。


 俺はせっかちで、三名数なのに2番手を答えてしまいがちだった。「三大○○」なんて親切に前置きしてくれたら話は別だが。


 3つと言ったが、「○○(、△△、××)のうち、~なのは何でしょう」なんてのもあるな。これは問題文を聴いてからよーいドンでいいのかもしれないが、仲間外れに気づけたら早いかもしれない。そんな気がする。






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