第3章 魔王軍との戦いスタート

次の目的地は迷いの森

「マヨイノ森?」


「ああそうだ」


 アップグレードして目覚めた俺は、いつものテーブルで朝食を食べながらステラの話を聞いていた。時間は8時、リリカはまだ目覚めていない。


「マヨイノ森ってまたそのままの名前だけど……それがなんなんだ?」


「オルスメニアとこの前教えたシーニャの出身地であるルースとの間にある、どこの国にも属していない森だ。1年ほど前から入る人が行方不明になる事件が続出し、今は立ち入り禁止となっている。クエストも出ているが、もう勇敢な冒険者は行き尽くしたな」


「へー、結構ヤバいとこなのか」


 入る人が行方不明ね。何があるかはわからないけど【転天】にも同じようなのがあったような。魔王軍の配下が住んでいて、魔王城へと誘拐していたみたいな。


「私もそれだから帰ろうと思っても帰れないんですよね。稼いだお金はルース専用の鳥さん便で送るから良いんですけど」


 シーニャが椅子に座って頬杖に付き、ため息交じりに言う。


「あれ?ここってどうやって来たの?」


「あ、それはですね、私攫われてきたんですよ」


「「え?」」


「元々出稼ぎに出る予定で、森はどうしようかなと考えていた時にたまたまマヨイノ森を突っ切るという闇馬車があったので利用しようとしたんですよ」


 闇馬車って……闇タクシーみたいなもんかよ。


「そしたら乗った馬車が人身売買の業者でして」


「それ何かされなかったの!?」


「森の途中で正体がわかったので、懸賞金もかかっているかもって思って懲らしめました」


 えへへと満足の笑みで話す。そっか、シーニャ戦士だもんな。売られるくらいだったら業者潰して懸賞金手に入れたいもんな。いやそういう問題じゃ無くない?


「でも迷わなかったの?それに行方不明とか……」


「ルースの獣人族にとってマヨイノ森は結構庭なんです。業者も今回初めて見ましたし、狩猟や採取をよくしてます。音を聞いて危機を回避してお馬さんに指示して無事来れました」


 腕を組み、うんうんと頷くステラ。


「音聞いて危機回避とか出来るの?」


「ええ、一応出来ますよ」


「……そんなんなら最初から自分で入れば良くない?」


「自分から立ち入り禁止に入るのってなんか嫌じゃないですか」


……わかる


「っていうか動物と話せるの!?」


「ええ、それもそうですよ」


「え、でもシーニャ肉とか食べてるよね?」


「それとこれとは別ですよー!」


 もうこのことに関してはこれ以上追及するのは止めておこう。ステラも軽く引いた顔つきをしている。


「それで組合に業者を引き渡しに行き、マスターと出会い、働かせてもらったという訳ですね」


「へー、そうだったのか」


 一口水を飲んでコップを置くシーニャ。色んな意味で凄い話だったけど、これ何の話だっけ。


「そこでだ!」


沈黙していたステラが口を開く。


「噂に聞いていた獣人のマヨイノ森の土地勘、それに危機察知能力さえあればこの原因も突き止められるんじゃないか」


 確かに。他の冒険者が諦めたことをやるっていうのも凄い気がする。


「それに報酬も高いだろう?」


 言われたシーニャを見ると、また目にGマークがついている。


「はい!金貨200枚です!」


 そりゃあすげえ。国の問題だしこんくらいは出るってことか?


「どうだチヒロ君。行かない理由は無いだろう?」


「正直」


「ん?」


「なんにも無い。マジで行く理由しかない。行くぞそのクエスト」


 地獄なんか行きたくねえし、俺は魔王軍を倒すしかないんだ。


「よし!そうと決まったら早速行くぞ!」


「だからリリカ忘れんなって」


 立ち上がったステラを座らせる。半分マジでやってんじゃねえか?って気もしてくるんだが。


***


「ダメですよー」


「なんでですか!」


 クエストの受注をしに行った俺達は、ミクに思いっきり拒否された。


「先輩は知ってますよねー?このクエストは、王都の指示か許可をいただいた冒険者しか行けないんですよー」


「でも私は!もが!」


「シーっ、種族のこと、そんなでっかい声でしゃべるな」


 とっさにシーニャの口を押さえる。


「そもそもヒバチさん以外に伝えていんのか?」


「いえ、私向こうからずっと帽子を被っていたので……」


「じゃ、なおさらだ」


 まあ今の感じじゃ獣人っていうだけじゃ受注できないだろうけどさ。


「例えチヒロさんが『ヌシ殺し』だとしてもー、先輩が獣人だったとしても無理なものは無理ですー」


 おい、バレてんじゃねえの?めっちゃ頭を振るシーニャ。


 うーん、それにしてもどうするか。


「入っちゃえばいいんじゃないの?」


「いや、ダメだろ。報酬貰えないし」


 あたしが払うのに、と言いたげなリリカは放っておくとして。


「どうするステラ?」


「うーん……」


「お困りのようですねぇ?」


 俺達の横から声がした。そちらの方を見ると、ほんわかとした雰囲気の白髪のロングヘアの女性が受付のカウンターに向かって寄りかかり、にこっと俺に微笑む。迷彩柄のローブを身に付け、長い杖を持っている。背の高さもあり、とても綺麗な印象を受ける。


「えっと……?」


「受付嬢さん、王都の許可があれば良いんですよねぇ?」


「はい、良いですけどー?」


 女性は懐から手帳程度の大きさのカードか何かを取り戻し、カウンターに乗せる。


「それって私が許可出せば良いですよねぇ?」


「え、それって……」


 言われたミクがそれを手に取る。


「王都直属実働部隊【天の翼】!?王族に次ぐ権力を持つ部隊じゃないですか!?」


 ミクが驚きそう言うと、俺以外の全員がザワっとする。まあ名前からして偉そうな部隊なのはなんかわかるけど。


「チヒロ君は知らないだろうが、なんでこんな田舎にいるのかもわからないレベルだ」


「まあそんな感じはした」


 いる理由もわからないけど、それよりも。


「ええ、一応そこに所属しておりますぅ……不本意ながら」


 ボソッと何かを呟いた気がする。


「で、私が許可を出せば良いんですよねぇ?」


「えーっと、多分大丈夫だと思いますー……では受注ということでー」


 ミクは事務処理を始めたのを見て、また俺の方を向く女性。


「良かったですねぇ。私がここにいて」


「え、ええ、ですけどなんでそんな手助けを……?」


 一番分からないのは手助けをしてくれた意味だ。どこの誰かもわからないこんな駆け出し冒険者に何で手助けをしてくれたんだろう。

 女性は唇に人差し指を当て、少し悩んで回答をする。


「うーん、試験っていうのとぉ、楽したいからですかねぇ」


 ……良くわからない答えが返ってきた。


「それじゃ私はこれで失礼しますぅ……また会う事があるかもしれませんがぁ、チヒロ君」


 そう言い残して、手を振り去っていく。俺の名前を知っていたのは、その前の会話をきいていたからだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

半日だけ魂で異世界転生出来たけど、このままだと消えてしまうのでポンコツゴーレムに魂を入れて生き延びます。 柑橘特価 @yasuurimikan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ