久しぶりのあの人

 結局ショウブさんの事は誰も覚えていなかった。一晩経っても二晩経ってもだ。なんで俺だけ記憶が消えていないのかはわからないけど、恐らくあの人が最後に手を叩いたのが能力発動のトリガーだと思う。町内会長さんもそのせいで空き家だと思っていたんだろうな。

でも……何が目的?


 まあ考えていても仕方が無いのでダンジョンの周回をしています。というかしていました。


「よっしゃ!これで鉄集まったってことで良いんだよな!な!?」


「ああ、君の体積分は集まった。これで強化が出来る」


 【収納】を手に入れた俺達は、ハジメノ迷宮をぐるぐるぐるぐるひたすら周回しまくった。スマホゲーだったらポチポチで良いんだろうが、ここは現実。チャートを組んで30階まで周回。


「本当に終わったのねこれで……もうオークもアンデッドも見なくて済むのね……!」


 リリカの言う通り、11~20はオーク、21~30はアンデッドが主だった。全体的に臭いがやべえ。後半はステラが大量に消臭玉を作ってずっと投げながら進んでた。

 階層主のギガントオークもリッチーも馬鹿正直に向かってくるだけだったから、ゴーレムレーザー(ステラ命名)で簡単に倒せた。


「お金が貯まるので私はなかなか嬉しかったんですけどね」


 今回の周回で貯まったお金は約金貨100枚。4人で分けて1人25万円くらい。多分20周以上はした気がする。期間は約1ヵ月。アンデッドの素材はめちゃくちゃ安くしか売れず、全体的には値段は上がらず。割りが良いといえば良いんだろうけど、新米が行けば命の危機もあるだろうし、やっぱり安い気もする。


 鉄の体が出来るのは大体3日後、魂を入れるのも3日程度かかるらしい。ステラ曰く、一回離れてもその間に成仏ってことは無いっぽい。多分だけど。あー。めっちゃ待ちと遠しい。

早く時間経たねえかな。


***


 経ちました。っつーかメタ的に経たせました。3日間は特に面白いこと無かったし。前のカタツムリの時に出した塩で塩害が起きて、ステラが逮捕されたくらい。まあそれは良い、釈放されたし。今は俺の体が優先。今は最初に体を手に入れ目覚めたステラの家の研究室。研究台の上でまた裸にされている。


「なんでまた裸にならないといけないんだ?」


「色々サイズ図らないといけないからな」


「……それ、魂抜いてからで良くない?」


「……………じゃあ今から魂を抜く」


「おいなんだよ今の間は」


 絶対気づいてなかっただろ。後ろを向いたままのステラの表情は読めない。


「あとあの機能は出来そうか?」


「出来るとは思うが、聞いたイメージだけだからな」


「天才だろ?」


「完璧にできる」


 のせやすいなほんとに。


「安心したまえ。目覚めた時にはアップグレードされている」


「お前が言うと安心できねえ」


「目を瞑ってくれ。【人形技師】」


 言われたとおりに目を瞑ると、寝る瞬間のようにふわっとする感覚が起きる。これが魂の抜ける感覚なのだろうか。目を開ける動作をしても目の前は真っ暗……あれ、目覚めた時にはって言われてなかったっけ?これじゃあまるで……





『千尋様』


……


『聞こえてますか?千島千尋様』


はー……


『……しょうがないですね。消滅させますか』


「あー!起きてる起きてる!起きてますって!!」


『チッ……良かったです』


「今舌打ちしませんでした?」


 間違いない。ここは俺が死んだ瞬間に来た場所。そしてこの恐ろしく事務的な声の主は……。


『お久しぶりです。小林です』


「……お久しぶりでーす」


 正直あんなずさんな状態で異世界に送られて文句を言いたい気持ちもめちゃくちゃあるんだが、どちらかと言えばそれよりも。


「今更なんです?魂が離れた瞬間で消滅させに来たんです?」


 まあタイミング的にもそういう事なのかなとは思う。


『確かに千尋様はとてつもない抜け道を見つけましたが、それはしません』


 ほう?


『現地のステラ様の能力は凄いですね。魂がゴーレム?でしたっけ?に封じ込められている間、私たちは干渉を行うことが出来ませんでした』


 あいつどんだけ凄いんだ?この世界のバグ的な存在だったりするのか?


「でもただ話に来た訳でも無いでしょう?」


『ええ、まあそうですね。千尋様、あなたはこのままこの世界で生きていくのは許します。ただし魔王をその手で倒してください』


「魔王を?」


 元からそのつもりだけど。


『ええ、実はこの世界の魔王は千尋様と同じ転生者出身でして、その力を利用して魔王として君臨しているのです』


「転生者?マジで?」


『ええ、マジです』


 なんかあれだな。俺も主人公じみてきたな。同じ転生者の魔王を倒す宿命、うん。いいじゃんね。


「良いですよ。何か燃えますし」


『かしこまりました』


「でも神の力とかで倒せないんです?」


『いえ、放っておいて様子見していると楽し、いや、干渉出来ないんです』


「天界ってもしかしてクソみたいな場所ですか?」


 なんつーか娯楽主義というか。神って性格クズが多いってWikipediaで見たけどやっぱそうなんかねぇ。


『あ、あと倒せなかった場合は無間地獄行きですから』


「そういうの先に言ってくれないかなぁ!!??」


 小林さんの天界の宗派ってどこだよ。無間地獄って一番下じゃねえか。


『でもまあ、男に二言は無いって言いません?』 


「ぐっ……まあ今更消滅は選ばねえけどさぁ……」


『せいぜい頑張ってください。ガチャで1等を引いた方もいらっしゃいますが、先を越されませんように』


「それ絶対主人公じゃーん……」


 1等の内容を知らないけどチート能力を持っている気がする。主人公(仮)への嫌な予感を抱きながら、今度こそ俺の意識は闇へ沈んでいった。


***


「お、起きたか」


 実験台で目が覚めた。時間は……まあ今は関係ないか。今回は近くにステラがいてくれたようだ。また裸なのは良いとして、見た目も特に変わらない。


「ステラ」


「ん?」


「絶対魔王倒すぞ」


「あ、ああ」


無間地獄は絶対に嫌だ。俺はそう誓った。

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