エピローグ

 俺の旅は終わった。アメリカの旅は終わったのだ。


 メインイベントが終了してから3週間後、俺は日本へ帰ってきた。やはり生まれ育った国はホッとする。アメリカのように周囲を警戒する必要がない。深夜に外を出歩いても危険を感じない。飯が美味い、タバコが安い。日本は良い国だ。



 勿論、3週間の間も色々あった。他のトーナメントにも2つ出た。サンディゴのカジノへも行った。しかし、なんだか気が抜けてしまって、プレイに集中できない。楽しくないのだ。あの興奮が懐かしい。俺の求めていたものは終わってしまった。もう一度、もう一度心の底から戦いたいのだ。


 LAへ戻ってからは散々な目に遭った。バスではひったくりに遭った。幸い何も盗られなかったが、それからは黒人を見ると緊張するようになってしまった。

 愛用の革ジャンを失くした。ポケットに入っていたカジノの会員カードと1,000ドルを失った。通りを走り回り必死に探したが、結局見つかることはなかった。ホームレスにでも拾われたのかもしれない。友人のホセは「必要な人間の元へ行ったはずだから、」

 意気消沈していたところ、友人のホセが海へ連れて行ってくれた。久しぶりに心の底から笑える。楽しい。肩の力が抜けた。

 そうだ、新しいことに挑戦しよう。



 ミックスゲームというゲームがある。ポーカーのルールは一種類ではない。ハイとロー、ホールデム、スタッド、ドロー、更にバドゥーギ。これらを組み合わせて20以上のルールがあるのだ。

 俺にはミックスゲームの経験はない。ルールだけはなんとなく知っているが、プレイしたことはない。けれど、楽しそうだ。いつもプレイしているテキサスホールデムには飽きてきていたのだ。それならば、気分転換に違うゲームをプレイしてみるのも一興だろう。


 LAのハスラーカジノ。月曜日と木曜日にはミックスゲームが開かれる。席が空いたので、

「ルールがあんまり分からないけど参加してもいいか」と聞くと、

「教えてあげるから一緒にやろうよ」と温かい言葉を貰った。

 まあ、彼らにしてみればフィッシュが一人増えるので嬉しいはずだ。



 1周ずつ別のルールでポーカーをする。展開が目まぐるしく、戦略を立てられない。勝てる気がしない。でも楽しい。同じテーブルのプロにコツを教わりながら、勉強するつもりでプレイしていく。気が付けばプレイ開始から6時間が経っていた。

 トーナメントが終わってからは惰性でプレイしていた。けれど、今は生まれ変わった気分だ。


 新しいゲーム、新しい挑戦。俺はこれを求めていた。知らない風景。心臓が脈打つ。細胞が活性化する。脳みそが回転する感覚。生を感じる。これが生きている感覚だ。これがなければ、私が私ではなくなってしまう。最高の感覚だ。

 4日間のプレイを終え、名残惜しいが帰国した。成績はプラスマイナスゼロ。初めてのゲームだったので、この成績なら満足だ。




 順調に帰国した。懐かしい日本。母国なのに、遠く離れた異国に来たみたいだ。

 空港や駅で周りを見渡すと、皆、強迫観念のようにマスクをしていた。俺には、日本は過ごしづらい。誰かに従うことを是として生きている。この国では、周りの目ばかりが人生だ。くだらない。

 しかも、暑い。なんだかジメジメしている。LAも暑かった。でも湿度が低く、カラッとしていた。

 帰国して突然、日本が嫌になった。


 次の旅に出よう。

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ポーカー放浪記 木村三文 @dendoro

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