閑話 ログによる解釈



 玉藻御前率いる九尾一族が集めてきたありったけの情報を収集し、吟味しつつ。

 イギリスでの創造神探しにある程度の目星をつけつつある俺は、ふと救世主として送り込んだ高校生、中島咲なかじまさきさんのことが気になってログを確認していた。


 そしたら少し見ない間に、なぜかとんでもないことになってるのなんのって。

 なんだこりゃ、なんでジーンと中島さんがもう出会ってるんだよと絶賛混乱中であった。


 とはいえ、事の成り行きはだいたい理解できている。

 そのためのログ機能だからね。


 しかしまさか、あの気難しい魔神ジーンを相手にして、こうも容易く打ち解けるとは思わなかったな。

 こんなの俺やミゼットどころか、誰とでも仲良くなれる緩さナンバーワンの紅葉だって無理だぞ。


 一応アプリの力をフル回転させ、救世主として相応しい素質をもった人間を選んだつもりではあるけど、ここまでコミュ力が高いとは思わなかった。


 いや、これはコミュ力というのだろうか……。

 なんだか、ちょっと違う気がする。


 もっとこう、なんて表現すれば良いんだろうな。

 悪さをしてイジけている不良を包み込む、圧倒的なヒロイン力……。

 たとえば母性とか、そういったものに近いかもしれない。


 こんな感想をジーンが聞いたら否定しそうだが、たぶんそんな感じ。

 それにここまで仲が良くなったのなら、どうにかして中島さんには魔神を倒す方向ではなく、魔神と和解する方向で話を進めてほしいものである。


 一度死にかけた彼女をアプリの力で送り込むときには無茶を言ったけど、やっぱり無謀なことをして死んで欲しくはないからね。

 たとえその命が尽きた時に、この世界に戻ってこれるのだとしてもだ。


 どうしてもジーンをぶっ飛ばさなければならない展開になったのなら、その時はやはり、俺が直接出向かなければならないだろう。


 それこそがあの異世界と、そしてそこに生きるすべての者達を生み出した俺の責任だ。

 たとえそれが、何者かの意思の延長であり、アプリの力を利用しただけのものだとしても、ね。


 直接的な暴力ではなくとも、最低限面と向かって語り合う。

 これだけは絶対に揺らいではいけない、男しての、……いや、創造神としての矜持だ。


 まあ、いまはそれはそれとして。

 先に片付けなければならない、もう一人の創造神探しっていう大問題があるわけだけどもね。


「ふぅん? ジーンのやつ、案外あのサキっていう子にべったりじゃない。今度あったらからかってあげようかしら?」

「や、やめておけミゼット。本気で怒られるぞ」


 めちゃくちゃ悪い顔をしてニヤつくミゼットではあるが、それこそ命取りになるから止めてほしいところである。


 そしてなにより、ジーンが本気で怒ったら誰にも止められない。

 対抗するためには龍神くらいの超戦力を用意して挑む必要があるだろうけど、悪ふざけをしたミゼットの尻ぬぐいをしてくれるはずもないので、実質詰みだ。


 うん、もしミゼットが悪ふざけしだしたら、全身全霊をもって止めに入る必要がありそうだな。


 ジーンのやつは冗談を言うのは好きでも、冗談を言われるのは心底嫌がるタイプだ。

 なんだかんだでジーンとの付き合いも長いし、こんなことが分からないミゼットじゃないことを祈ろう。


「な、なによ、その顔は。ちょっとした冗談じゃない」


 ……ほんとうだろうか?


「もう、本当よバカ! 子供の頃だったならいざしらず、今の私がケンジの不利益になることをするなんて、絶対に有り得ないことなの。わかるでしょ?」

「そうだな。うん。そ、その通りだ!」


 いや、まったく分からなかったけども……。

 だが本人が冗談だというなら冗談なのだろうし、これ以上追求するのはやめておく。


 俺を信じてくれているミゼットのことを信じる。

 そっちの方が、今後も後悔せずに丸く収まりそうだ。


 なにより、こんな俺を愛して時代も世界も飛び越えてきた女性なのだから。


 そんなこんなで、一見すると自分の目を疑うような奇怪なログを閲覧しつつ。

 救世主中島咲の影響で、異世界の方に希望を持てた俺はついに目的の場所へとたどり着く。


 九尾一族の案内で気配を消し歩を進めた先にあったのは、イギリスの古民家と思われる人気のない場所。

 いまにも朽ちそうな古民家の周りには蔦や草が生い茂り、まるで人が住んでいそうな雰囲気はない。


 ただし、その気配とでもいうのだろうか。

 僅かだが、しかし確実に。

 いまにも消えそうな魔力を持った「ナニカ」がこの中で身を潜めていることだけは理解できる。


 その証拠に九尾一族は全員が臨戦態勢になり。

 いつまでたってもビビリ妖怪な紅葉なんかは、尻尾の一つを内股にはさんで震えているくらいだ。


 ただちょっと。

 怖いのは分かるんだけども、俺にくっつきつつ小声で「儂、ここちょっと無理かも」とささやくのだけは止めてほしい。


 気配を消すのがうますぎる紅葉がやると、シャレにならないドッキリになるのだ。


 想像してみてほしい。

 いまにも何かが出てきそうなおどろおどろしい雰囲気の中、急に背中にくっつかれ耳元でささやかれる成人男性の構図を。


 うん、変な声でた。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


【新連載のお知らせ】

タイトル:

ゴールド・ノジャーと秘密の魔法


URL:

https://ncode.syosetu.com/n6199id/


なろうで先行公開しています。

現在ストックが50話ほどあるため、

長期間毎日更新できそうです。


こちらも何卒よろしくお願いいたします。


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異世界創造のすゝめ たまごかけキャンディー @zeririn

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