謎の魔族4



 魔神に関わりがありそうな、いかにも怪しい魔族っぽいヤツ。

 こいつは自分のことをジーンって名乗っていたけど、そんなジーンから受ける凍て付くような視線に耐えながらも打開策を模索する。


 私が交渉を有利に進めようとすれば、バレた時にこのサイコパスが何をしでかすかわかったものではない。

 だからなるべく核心には触れない感じで、そっと話題にのっかるのがベストなんだろうけど……。


 あいにく、この超越者の前でそんな児戯が通用するとも思えなかった。

 だって、こちとらちょっと前までただの女子高生だったんだよ。

 こんなバケモノと渡り合うなんて、無理にきまってるじゃん。


 しかしそう思っていたのは私だけのようで、なぜかふとした瞬間、急に視線の圧を緩めたジーンは、一人で勝手にうんうんと頷き何か納得していた。


 こっちからすれば助かったのでいいけど、正直、ふ~んって感じ。

 こいつが何を考えているのか謎すぎてお手上げ状態だよ。


「なるほど、なるほど。君は木偶ではあるが、父が選んだだけはあってずいぶん慎重な、もっといえば質の良い木偶のようだ。さっきの開き直り方といい、僕に対する警戒心といい。人間にしては珍しいくらいに心のバランスが取れている。しかもそれが、格上だと理解している相手に対する態度なんだから、僕としたことが少しびっくりする案件だね」


 そうかそうか~、ヒト族っていうのはここまで見込みのある生き物なんだね~、って笑いながら拍手してるけど、こんなバケモノに見込みがあるとか言われてもちょっと……。

 そんな感じである。


 だけど、そんなこっちの事情はお構いなしにジーンは話を進めていき、私の何が気に入ったのかしらないけど「君という木偶。いや、救世主を選んだ父の創造は、やはり素晴らしい」とか、「君にもわかるだろう?」とかいって、最後には「これが我が父の望んだ……」なんていいながらブツブツ独り言に没頭しだした。


 話が終わったなら帰ってくれないかなって思うけど、あんまり失礼な想像をするとまた心を読まれそうなので適当にうんうんと頷いておくことにする。


 そうしてしばらく謎のコミュニケーションが続いたのち、何を思ったのかジーンはこう切り出した。


「うん! 僕は君のことが気に入ったし、父が君を送り込んだ、だいたいの事情が読めたよ。さて、有益な情報をもたらした君には何か報酬を与えないといけないね。何がいい?」

「え? なんかくれるの?」

「はははは! 馬鹿だなぁ君は! 父の期待を背負った君から一方的に搾取してしまったら、僕が父のみならず、旧友(りゅうじん)からも叱られてしまうじゃないか。というか、実際に今回のことで旧友に殴り込みをかけられて、本体の方はちょっと重症だしね……」


 いや、このバケモノに殴り込みをかけて、一方的にのしていく旧友って何者なのよ。

 でも、この地獄のような面談に付き合った褒美をくれるっていうのなら、否やはない。


 私としてもおじ神から依頼された、魔神とかいうヤバいやつをなんとかするために情報を集めなくてはいけないのだ。

 だから少し、ここで聞くべきことを整理しようと思う。


 まず一つ目に、直接このジーンに魔神のことを聞いてしまうという案。

 二つ目に、一つ目が叶わなかった時の代案として、おじ神が抱えている問題について相談する案。


 私が大目標として抱えている問題はこのあたりだから、どちらかが通ればいいんだけど……。


「うむむ……」

「それなら、二つ目が妥当かな。そっちなら協力できるよ」

「って、また心を読んでるし!?」

「そりゃそうだよ。だって僕は良い子の味方、ジーン様だからね。悪い子には協力しない主義だから、心を見透かすのは必須の技能さ」


 ぐぬぬ……。

 このバケモノがいくらサイコパスとはいえ、協力的な理由が、私が悪人ではないからというのはちょっと悪い気はしないし、感情的になって否定できない……。


 小癪な魔族だねほんと。


「そう邪険にしないでよ。僕はね、これでも父の創造を助けたくてこうして好き勝手しているんだ。ここだけの話、君の言うおじ神が抱えている問題は根深くてね」


 お道化るように語るジーンは、その場でくるりと回って人差し指を立てる。

 そして憎たらしい笑みを浮かべながら、ウインクも混ぜてあっかんべーの形をとった。


「我が創造主たる父が、見ず知らずの世界の創造神を助けたそうにしていたから、独断専行という形で悪さをしたまでなんだ。って、君に言ってもわからないかな」


 わかるわけがない。

 というか、そのあっかんべーやめろし。


 でも、なぜだかは分からないけど……。

 そうお道化るジーンっていう魔族の少年は、態度とは裏腹にどこか悲しそうにしている気がした。


 まるで大好きでお人よしな家族が、他人のために無茶をしないように必死で足掻いているような。

 だからといって許される悪戯じゃないのが分かっているような。

 そんな、親に叱られる前の子供のような印象を受けたのだ……。


 どこか庶民的な創造神。

 あのおじ神なら、こんな魔族の少年のことを見て、どうするだろうか。


「こうする、のかな?」

「ん、んん? 何をしているんだい君は?」

「えっと。優しい優しい悪い子に、愛のお仕置きをしているところ……?」


 やっべ。

 ちょっとジーン君の哀愁漂う姿に感情的になって、思わず抱きしめちゃった。


 どうしよ、これ……。



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