24.並行世界——パラレルワールド


「ミランダさん……、聞こえていたら返事してください……!」


 雨の中、飛田とびたは来た道を戻る。

 ミランダを呼んでみるが、やはり何の反応も無い。

 このまま裏飛田たちから逃げて霊群たまむら駅に向かう事も考えたが、それはどうもスッキリしなかった。裏飛田たちはきっと飛田を待っている。

 ならば、今は早く裏飛田に追いつかなければ。

 

 小走りで“ヒミツキチ”に入ると、先に行く裏飛田たちの姿が見えた。



「よくやった、もう1人の俺よ。2万エイコン、確かに受け取ったぞ。諦めていたが、少しでも回収できただけ良しとしよう」

「ほぉ、やるやないの。お前さん、案外頭ええんやな」

「ボスに褒められるなんて、なかなかね、あなた」


 ヒミツキチの中は蒸し蒸しとしている。汗の滲んだシャツが肌にくっつき、飛田は顔を歪めた。

 裏飛田はニヤリと口角を上げている。声のトーンも上がり、鼻歌さえ口ずさんでいる。

 飛田はここぞと、裏飛田に質問をぶつけてみた。


「あの……。色々なお金を集めているようですが、何か大金が必要なことがあったりするのでしょうか……?」

「別に。俺はカネが好きなだけだ。好きでかき集めてるだけだ。さて、次の目的地は、地の底にある猫どもの国、【ニャンバラ】だ。トリトン!」


 あっさりと返した裏飛田は、絶句する飛田をよそに、再びトリトンを喚び出す。

 紫色の光る靄に包まれながら現れたトリトンがワープゲートを出現させる前に、飛田は質問を口にした。


「トリトンさん、私たちがいるこの世界は一体、どういう所なのですか? 私が知るコハータ村近辺や、ねずみさんの世界と似てるけど、少し違っている……。私は何でこのような世界に迷い込んだのでしょう……?」


 何も分からぬまま、乗っていた電車は“霊群駅”に到着し、無人駅に放り出され、“もう1つの世界”とも言うべき場所に来てしまった。

 魔王を倒す旅を続けなければいけないのに、こんな事をしていていいのだろうか。あるいは、魔王の仕業で、この世界に迷い込んでしまったのか。


「やあやあ。君はもう1人の優志まさしくんだね。ここは、君たちの世界から見たら、【並行世界パラレルワールド】ってことになるよ」

並行世界パラレルワールド……ですか?」


 “並行世界パラレルワールド”とは、一体——。


「要するに、“宇宙の別次元に存在する、もう1つの世界”のことだね。君の生きる世界と、そこにいるもう1人の飛田優志くんの生きる世界は、“並行世界パラレルワールド”同士、というふうに認識してもらえればいい」

「裏飛田さんたちにとっては、私の住む世界が“並行世界パラレルワールド”だ、と?」

「そうそう。もう1人の飛田優志くんは、別次元で別の人生を生きる、君なんだよ」

「別次元……ですか。私は次元を超えて来てしまったんですね……。でも何故……」

「君には、魔王を倒す使命がある。そこにいるもう1人の君に会うために、ここに呼ばれたんだよ、きっと」


 別次元で別の人生を生きるもう1人の飛田——裏飛田は、紫煙をくゆらせながら眉を顰めた。

 裏飛田に魔王討伐の意志が無いことは、先日の会話で分かっている。やはり彼を説得し、力を合わせなければ、魔王ゴディーヴァは倒せないということだろうか?

 知りたい事に限りは無いが、気になる事から尋ねることにした。


「トリトンさんも、もう1人いるのですか? もしや——」

「うん。ミランダって名前の、風の精霊だよ」


 飛田の予想通りだった。


「やはり! なら、ミランダさんも“並行世界パラレルワールド”へワープさせる力があるんでしょうか?」

「ううん。その力があるのは、僕だけ。だから、今すぐ君を元の次元に送り返すことはできる。でも、そういう訳にはいかない」


 裏飛田は言葉を発さず、ギロリとトリトンを睨んだ。まるで「早くしろ」と言っているかのように。

 裏ラデクも裏サラーも先ほどから落ち着きがなく、苛立っているように見える。


 そんな裏飛田たちに構わず、トリトンは声のトーンを落とし、話を続けた。


「魔王ゴディーヴァは……“並行世界パラレルワールド”同士すら融合させてしまい、魔族の世界にしようとしてるんだ……!」


 つまり、現実世界と夢の世界だけでなく、“並行世界パラレルワールド”における現実世界と夢の世界をも、1つの世界に融合し、魔族の世界にしようとしているというのだ——。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

生活習慣病治療中のおっさんは異世界で勇者となり、魔王を倒す旅に出る 戸田 猫丸 @nekonekoneko777

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ