23.説得
裏
その代わり目の前に立ちはだかるのは、覇王の如き迫力で飛田を睨みつけてくる裏ねずみの母。
「あんたもアイツらの仲間なのかいッ!?」
「いえ、違います!」
「ほんとかい? まあ……、あんただけ、何か人の良さそうな顔してるしねえ?」
信じてくれそうだ。
ただ、飛田には引っかかるものがあった。
側で震えている裏ねずみの父は、本当に空気清浄機を裏飛田から買ったのだろうか——?
「あの……」
「何だい?」
裏ねずみの母に尋ねようとするも、威嚇するような声の大きさに、飛田は震え上がる。
「その……空気清浄機を2万エイコンで買ったのは、本当……なのですよね?」
「それはホントだよ。ほら、アレだよ」
裏ねずみの母が指差した先に、薄い板のような機械が置かれており、何やらランプが点滅している。コンセントなどはなさそうなので、電池式か何かだろう。
ともあれ、作曲業を営んでいる飛田は、契約ごとをしっかりしておかないとトラブルに繋がることをよく知っている。
現状、ねずみたちが裏飛田に対して1エイコンも支払っていない状態だ。それは飛田にとっても、どうにもスッキリしないものだった。
「その……。無茶な取り立てはしてはいけないですが、2万エイコンで買うという契約だったんですよね? 2万エイコンならば、今用意することはできませんか……?」
義務感のようなものに駆られ、飛田は尋ねた。
手ぶらで裏飛田のところへ戻ると、何をされるか分かったものではないという事情もあった。
「……そうさねえ。パパはハンコおしちまってたもんねえ。ちょっとお待ちよ」
「あ、はい」
程なくして裏ねずみの母は、抱えるほどの大きさの金貨を2枚、運んできた。
「ほい、2万エイコンね。ったく、パパったら契約する相手はよく考えろって言わなきゃ。【マッドドクター・ハールヤ】とかいうおかしな医者にも、ぼったくられるし……」
「……これが2万エイコン……ですね。ありがとうございます。さっきの人に確かに渡しておきます」
ドングリの彫刻が施されたその“エイコン”という名の金貨はズシリと重く、安堵の感情も相まって、飛田は少しよろめいた。
「二度と来るな! バーカ!!」
「これ、チップ。そんな事を言うんじゃないよ」
「いって!」
アカンベーをした裏チップに、裏ねずみの母がガツンと拳骨を喰らわせる。その横で、裏ねずみの父はヘコヘコと頭を下げながら、聞こえるか聞こえないかのような声で「ありがとうございます、ありがとうございます」と連呼していた。
雨が降ってきている。
湿った空気の中、飛田は濡れながら“ヒミツキチ”に向かって走った。
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