【あとがき――という名の簡単な解説】



 はじめましての方ははじめまして、そうではない方はいつもお世話になっております。

 吹井賢です。


 この『18.44メートルの恋』は、「5分で読書」短編小説コンテスト2022に応募する為に書かれたものです。同コンテストに僕は三つの作品を応募したのですが、その三つの中では一番自信があったもので、他の二つはともかく、これが最終選考に進めなかったのは普通にショックで、少しばかり、落ち込みました。

 面白いと思うんだけどなあ。

 まあ、吹井賢は他人からの評価を得られなかったとしても、自分の中の評価を変えない人間なので、別に構わないのですが。


 簡単な解説……というより、備忘録になってしまうのですが、まずコンテストが「小学校高学年から中学生の読者が朝読で読む作品を応募する」というもので、テーマの一つが『誰にも言えない恋(恋愛)』だったため、吹井賢としては珍しく何も捻らず、「小学校高学年の恋」を描きました。すぐ書けましたね。

 恋した相手がライバルピッチャー、だから、誰にも言えない。そんな話なのですが、一方で、初恋ならではの、「この感情が『恋』なのか、分からない」という機微を描いたつもりです。同時に、主人公・宮山ヒナの内面では、「恋する相手の隣を歩きたい」という乙女心と「ずっとこの距離で戦い続けていたい」というピッチャーとしての矜持、あるいは、ライバルに対する対抗心が同居し、せめぎ合っています。物語冒頭で本人は「逆立ちしたって可愛い女の子にはなれない」と独白していますが、非常に可愛らしいですね。

 少年野球の場合、マウンドからバッターボックスまでは12メートルほどなので、18.44メートルではないのですが、表題の“18.44メートル”は「ピッチャー・バッター間の距離で最も代表的なもの」であると同時に、転じて、「ライバルとしての距離の象徴」であり、「宮山ヒナと氷室ケイの現在の距離の暗喩」です。

 そして、その距離は恐らく変わっていきます。作中でも述べられているように、どうしたって男女では筋力差は出てきますし、彼等が直接対決するライバル関係でいられるのは、現実的に考えると、小学校高学年まででしょう。

 また、当たり前の話ですが、宮山ヒナが告白したからと言って、オッケーをもらえるとは限りません。同時に、告白云々を抜きにしても、ヒナが氷室ケイと同じ中学に進学すれば、同じ中学に通う友達として、距離感も変わっていきます。

 そういった諸々を考え、彼女は、「この距離は縮まっていくのだろうか?」と自問自答しているわけです。


 ところで、吹井賢は固定観念や規範といった類のものが大嫌いで、特にそれは恋愛や性別の話題において顕著なのですが、今回はあえて、「『女の子らしさ』に葛藤する様」を大事にしてみたつもりです。アンチテーゼのアンチテーゼですね。

 キャラクターが小学校高学年ということを大事にし、『“女の子らしい”一般的な女の子』と、『(自分の思う)“一般的な女の子像”から外れている自分』に葛藤し、「こんな自分が恋なんて!」と思い悩む様は、リアリティーがあるんじゃないかな?と考えています。

 可愛いですしね。

 彼女が偉いのは、恋云々、女の子らしさ云々について思考することをやめて、「今はライバルとして戦う」と決意したところです。頭を悩ますものは色々とありますが、今は対決に集中することを選択した。この一瞬を大切にしたのです。

 だから、相反する願いを抱きながらも、しかし彼女は迷いなくストレートを投げ込んで、この話は終わります。自身の願いが知られないことを、願いながら。


 最後に、簡単なパロディとインスパイア元の紹介をしたいと思います。

 僕は『パワプロクンポケットシリーズ』が大好きなのですが、2021年の11月に、十年ぶりの新作となる『パワプロクンポケットR』が発売されました。その早期購入特典の一つは「『パワポケダッシュ』のDLCコード」でした。

 で、この『パワポケダッシュ』のヒロインの一人に、『比奈鳥青空(ひなとり そら)』というキャラクターがおり、この掌編の主人公・宮山ヒナの名前は彼女から頂きました。「ライバルチームのエースピッチャー」という要素も彼女からです。

 この作品がすぐ書けた理由は、『比奈鳥青空』という可愛らしいキャラクターをモデル、もとい、雛形にしたからです。というよりも、『パワポケダッシュ』が少年野球の話なので、「少年野球での恋」がイメージしやすかったんですね。

 言うまでもなく、『宮山ヒナ』と、そのインスパイア元である『比奈鳥青空』とは、容姿から性格から、抱えている悩みから恋する相手との関係まで、何から何まで違います。知らない方は是非、『パワポケダッシュ』のそらルートも遊んでみてください。

 ……ゲームボーイアドバンスのソフトですけど。


 この作品が、皆様の一時の楽しみになれば、それが作者にとって最高の喜びです。

 それでは、吹井賢でした。

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18.44メートルの恋 吹井賢(ふくいけん) @sohe-1010

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