第3杯 ラテアート下 (加藤)

 その日、仕事終わりの凪さんは随分機嫌が良い様に見えた。

 私は彼女に何かいい事でもあったの?と、問いかけると彼女は目を輝かせながら、加藤さんのおかげですと、感謝の言葉を言われた。


 私は何のことやらと、頭にハテナが浮かんだ。

「加藤さんの言っていたお客さんの事を想ってラテアートを作ったら上手くいったんです」凪さんは興奮気味に言った。

 それを聞いて私は、なるほど。と、思った。

 凪さんはずっとラテアートの練習をしていて、それが遂に実を結んだ様だ。

「よかったわ。きっとお客さん喜んでたでしょ」

「はい。帰り際にラテアート、素敵ですって言ってくれました。それに、書き方を教えて欲しいって」

 相当嬉しかったのだろう。凪さんのニコニコ顔が止まらない。


「貴方のがきっと通じたのよ」


 凪さんは、そうですかねと笑顔を浮かべてから、

「そういえば十六番さんの秘密分かっちゃいましたよ」と、より一層笑顔になって言った。

「え、なにそれ」

「実は彼、漫画家さんなんですって」

「へー、そうだったの」

 私は相槌を打って、十六番さんのこれまでの行動を思い出す。確かに、漫画家だと言われれば、それらしい行動をしていたなと思う。

 凪さんは「もっと練習してラテアートのバリエーションを増やさなきゃ」だったり「十六番さんの漫画ってどんなの描いてるんでしょう……気になります」と言っている。


「じゃあ、今度は十六番さんの名前でも聞いてみたら?」という私の問いに、「え、え、……えっと、」と、凪さんはしどろもどろになって顔を赤くした。


 なるほど、そういうことか。私は一人腑に落ちた。

 この様子だと、まだまだ先は長そうだ。

 でもきっと凪さんなら上手く行く。

 そんな予感が私にはしていた。

 だって、ずっと出来なかったラテアートを一生懸命練習して綺麗に描ける様になったのだ。

 きっとこの恋も上手く行くと私は信じている。


 ……二人のカフェラテの様にほろ苦い恋は、まだまだ始まったばかりなのだ。


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ハートのラテアート 夏至肉 @hiirgi07

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