彼女はサクヤで俺もサクヤ

シカンタザ(AI使用)

彼女はサクヤで俺もサクヤ

黒髪ポニーテールの女子高生が白いビキニで砂浜に立っている。

「え? 何? あれ?」

と、俺ことユウキは目を丸くして驚いていた。いや、待てよ? どこか見覚えがある気がするな……って!

「サクヤ……?」

そう呟くと、女性はこちらに気付いたのか笑顔を浮かべた。その顔を見た瞬間、俺の中で何かが弾けるような感覚が走る。そして、俺は砂浜を駆け出していた。

「おぉぉおおッ!」

雄叫びを上げながら女性に向かって全力で走り出す。すると、女性は笑みを深めてから俺に向かって手を伸ばした。俺は彼女を抱きしめた。

俺たちはだれにも言えない恋をしている。なぜなら、サクヤはこの世に存在しない人間だからだ。

時を戻そう……。サクヤは、同じクラスの女の子だった。彼女はいつも笑顔を絶やさず、誰に対しても優しい性格をしていた。そんな彼女に、いつの間にか惹かれていたのだ。でも、俺は彼女に告白できなかった。なぜなら、彼女には彼氏がいたから。名前は大銅寺亮太。亮太とは幼稚園からの付き合いらしく、二人はとても仲が良いらしい。

そんなある日、サクヤが事故で亡くなったというニュースが流れた。俺はショックを受けたけど、彼女がもうこの世には居ないという事実を受け入れられずにいた。だって、ついさっきまで一緒に遊んでいたんだぞ? 信じられるわけがないじゃないか。

だが、それから一年経ったある日のこと。突然、俺の前にサクヤが現れたのだ。最初は驚いたものの、目の前にいるサクヤが偽物だとは思わなかった。それはなぜかと言うと、俺がサクヤについて知っていることを全て知っていたからだ。どうも、死んだ人間は生前の記憶を全て失ってしまうらしい。だから、サクヤは俺のことを全く知らなかったし、自分がなぜここにいるのかもわからなかったようだ。それでも、俺は嬉しかった。また彼女と会えたことが。

だけど、一つだけ問題があった。俺以外の人間にはサクヤが見えないようになってしまったのだ。つまり、今のサクヤにとって、世界で一番大切な人は俺ということになる。

そして、今日はデートの日。二人で遊園地に行くことになっているのだが、電車に乗って少しした頃、急に雨が降り始めた。天気予報では晴れと言っていたのに、なんてこった。

「うわぁ……」

思わず声が出る。傘を持ってきていないから、このままじゃびしょ濡れになってしまうだろう。しかし、今更引き返すこともできない。仕方ないと思いつつ空を見上げると、雲の間から光が差し込んでいることに気が付いた。なんとも運の良いことだ。これならすぐに止むかもしれない。

「よし」

俺は意を決して歩き出した。だが、しばらく歩いたところで雨脚が強くなってきたため立ち止まる。

「マジかよ……」

これはまずいなと思っていると、後ろから誰かに声をかけられた。振り返るとそこには、金髪ロングヘアの女性が立っていた。年齢は二十代後半ぐらいだろうか。目鼻立ちがくっきりしていて美人であることがわかる。ただ、外国人っぽい雰囲気があるためか、一瞬だけ戸惑ってしまった。

「あの……?」

恐る恐る尋ねると、彼女は微笑んでこう言った。

「私と一緒に来ませんか?」

俺はその言葉の意味がよく分からなかった。そもそも初対面なのにどうしてそんなことを言うんだろうか。もしかすると、ナンパなんじゃないかと思ったりもしたが、彼女の表情を見る限り違うように思える。よくわからないまま考えていると、彼女は再び口を開いた。

「あ、すみません。私はこういう者です」

そう言って名刺を差し出された。その名刺を見ると、「株式会社X&Cプロモーション 代表取締役・橘身優」と書かれている。どうやら芸能事務所の社長さんのようだ。しかも、所属しているタレントさんたちはみんな売れっ子らしい。へぇ~、こんな人がいるんだなぁ。

「それで、えっと……どういうことですか? あなたが俺をスカウトするってことですよね?」

「はい。実はですね、弊社の所属アイドルが一人卒業することになりまして……。そこで新たなメンバーを探しているんです。なので、もしよろしければご協力いただけないかと思っていまして」

「はぁ……」

「サクヤさんという方はご存知ですね?」

ドキッとした。彼女はサクヤのことを知っている?

「……はい」

俺はその質問に対して素直に肯定した。すると、彼女は真剣な眼差しでこちらを見てくる。

「単刀直入に言いますが、貴方にはサクヤさんになっていただきたいのです」

「サクヤに……なる!?」

予想していなかった答えに驚きの声を上げる。

「はい。実は、サクヤさんには特別な力があるんですよね。それがどんなものかはわかりませんが、その力がどうしても必要なんです。だから、お願いします! どうかサクヤさんになっていただけないでしょうか!」

社長は必死の形相で訴えてきた。そんな姿を見た俺は、なんだか可哀想だなという気持ちになった。

「でも、なんでサクヤの力が必要なんですかね?」

「それは……言えません。でも、サクヤさんにしかできないことなんです。だから、どうか協力してください!」

そう言われても、はい分かりましたと言うわけにはいかない。正直、何が起こっているのかさっぱり分からないし、それに……。

「無理ですよ。だって、俺はサクヤじゃないんだから」

俺ははっきりと断った。すると、彼女はがっくりと肩を落とす。

「そこをなんとか……」

「すいません。お断りさせて頂きます」

「……」

彼女は無言のまま俯いている。断られて落ち込んでいるんだろうな。ちょっと悪いことをしたかなと思う。

「では、失礼しま……」

「待って下さいッ!!」

立ち去ろうとすると、いきなり腕を掴まれた。驚いて振り返ると、サクヤがいた。

「サクヤさん!」

橘さんにはサクヤが見えるようだ。

「サクヤさん。ユウキ君と話をしました。やはり彼はサクヤさんではありませんよ」

「いいえ。彼は間違いなくサクヤです。私が保証します」

二人は俺のことをサクヤと呼んでいる。どうやら俺のことをサクヤとして見ているらしい。俺はなにがなんだかわからなくなった。

「つまり、俺は周りからサクヤとして見られていて、アイドルとして活動できるほどのルックスだと……?」

「はい、そうです!」

橘さんが笑顔で答えた。わけがわからない。

「いや、俺はサクヤではないんですけど」

「いいえ、違います。貴女はサクヤです。なぜなら、私にはわかるからです。貴女の魂が。きっと、貴女もわかっているはずです。自分が誰なのかということを」

「……サクヤはどう思っているんだ?」

「私は、自分が誰なのかなんて考えたことがない。私は私。それ以上もそれ以下もないから」

「……なるほど。わかった」

俺は少し考えてから返事をした。

「俺は自分がサクヤであることを認めた上で、アイドルになることはできません」

「なぜですか?」

「彼女との時間を優先したいからです」

「そうですか。わかりました。では、これで失礼します」

橘さんは少し残念そうな顔をしてから去っていった。

「ねぇ、どうして断ったの?」

「ん? ああ、まあ、なんとなくだよ」

「なんとなく?」

「うん。なんとなく」

「ふーん……」

サクヤはそれっきり黙ってしまった。俺もなにを話せば良いのか分からず沈黙する。すると、彼女は俺の腕をぎゅっと抱きしめてきた。そして、上目遣いをしながらこう言った。

「私とデートするのは嫌?」

「そんなことはないさ。ただ、ちょっと驚いただけだ」

「よかった」

彼女は安心したように微笑む。そんな姿を見ていると胸の奥がきゅーっとなった。

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