第101話 本番はこれから
「ま、マジ!?」
真凜が花音と一緒に声優としての道を歩んだのも、元はというと啓介の命令があるからである。
だが、途中で、真凜自身も声優の仕事が好きになり、啓介を意識することなく花音と楽しくマロンとして活躍してきたが、自分が彼の奴隷だということは一日でも忘れたことはない。
『ああ。もう君を奴隷として手元に置く必要はない』
「……なんでだよ」
『ん?』
「なんでここまでしてくれるんだよ!」
理由を聞かずにはいられなかった。
勉強もできず、高校卒業したら、自分にできることは限られてくる。
自分の美貌を利用して、なんとか食っていくことはできると思うが、それは自分がただ綺麗だから一時的に需要があるだけで、いつまで続くかはわからない。
だが、啓介は真凜に進むべき道を示してくれて、なおかつ花音をつけて「声」という能力まで与えてくれた。
もちろんオーディションに合格するために血の滲む努力を重ねてきたのは自分だが、啓介と出会わなければ、自分はこんな道があることさえ知らなかったんだろう。
返事を待つ真凜。
だが、彼は、
『秘密』
「な、何言ってんの……あんた」
『秘密』
「……じゃなんで私を自由にしたの?奴隷だから思いっきり私を利用したりしないわけ?」
『……暴動が起こる』
「はあ?」
『暴動』
「……」
本当にこいつなに言ってるんだよと叫びたいところだが、真凜は喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
きっと昔の血気盛んな自分なら、この男のことを思いっきり小馬鹿にして嘲笑ったはずだが、
そんな態度を取ることは、自分の首を自ら絞めるようなことだと、真凜はもう知っている。
人を馬鹿にせず、相手の立場に立って、物事を考えるのは大事だと。
昔の自分はそれができなかったから環奈にボロ負けした。
なので、真凜は気分を落ち着かせてから、また訊ねる。
「それはそうとして、あんたは彼女とか作らないの?」
『彼女?』
「綺麗でかわいい人気声優さんとか、女優とかからアプローチ受けまくりでしょ?知っているよ」
『愚問だ』
「え?」
『童貞力こそが、僕の想像力の源』
「……」
言葉を失う真凜。
だけど、真凜は動じない。
こういう人も、世の中にはいると、微苦笑まじりにため息をつくのだ。
「そうね。わかったわ」
『わかればよろしい』
「あ、そうだ。私、あんたに伝えたいことがあるの」
『ん?』
真凜は、胸焼けでもするのか、急に顔を顰めて、胸を押さえる。彼女の頭の中に浮かんだ言葉を彼に伝えることが嫌で体が拒否反応を起こしたのだ。
だけど、言わないといけない。
もう昔の自分じゃないから。
過ぎてしまった時間を巻き戻すことはできないが、変わった自分が新たな一歩を踏み出すことはできる。
なので、真凜は思いっきり息を吸って、
胸の内を明かす。
「私が間違っていたの!!あんたが正しい!!あんたの方が正しかったのよ!!だからありがとう!!こんな私を救ってくれて……」
『君に感謝される筋合いはない。僕の任務は終わった。あとは好きにしろ』
啓介は冷たい態度で返してから電話を切った。
好きにしろ。
その言葉はいろんな意味を孕んでいる。
彼の奴隷になった時、彼が突きつけてきた命令は二つ。
・啓介の命令には絶対服従
・樹と環奈に近づくな
つまり、この二つ縛りは無くなったというわけである。
なので、環奈は早速誰かに電話をかける。
『もしもし』
「花音ちゃん!私!」
真凜は花音と色んな話をした。
X X X
数日後
樹side
今日は休みだ。
環奈は大学で受験中。
なので、俺は環さんといい時間を過ごしてから、環奈を迎えるべく大学の方へ赴く。
これまで何度も環奈を迎えに行ったことがある。
その度に、環奈は急に俺にくっついて、散歩でもしようと、校内を歩きながら、俺にその胸を押し付けてきら。
おかげさまで、俺は数えきれないほどの男からの嫉妬の視線に晒されてきたわけだが、まあ、今日も同じパターンなんだろう。
待ち合わせ場所は校門。
よし、あともう少しだ。
俺は口の端を微かにあげて歩調を早める。
やがて正門に着いた私服姿の俺が時計塔に目を見遣りつつ待っていると、爆乳の黒髪美少女が俺の顔を見ては走ってくる。
「樹〜」
「環奈!お疲れ〜」
俺は微笑みを湛え手を振った。
その瞬間、
制服姿の二人の女の子が俺たちの間を遮った。
どんな絹よりも柔らかそうな青い髪の美少女に、薄い小麦色が印象的な金髪の美少女。
どちらも、アイドル顔負けの美貌の持ち主で、見覚えのある人だ。
片方は花音ちゃん。
彼女とは時々、啓介を混ぜて一緒に遊んだりするから、そんなに違和感はない。
だが、
もう片方は
「ま、真凜!?」
そう。
葉山真凜。
葉山翔太の妹で、俺に処女を奪われた女。
「樹っち……」
彼女は俺の顔を見た途端、目を潤ませて、俺に近寄ってきた。
戸惑った俺は何もできないまま、ただ立ち尽くしている。
「樹っち……私、もう同じ失敗は繰り返さないから」
と呟いてから真凜は、
俺の頬を優しく撫でてから、俺の唇を貪る。
「っ!!」
「なっ!!ま、真凜……あなた、何やって……」
環奈が目を丸くして戸惑い、口をパクパクする。
数秒間続くキス。
真凜は名残惜しそうに俺から離れては、色っぽい視線を送る。
そして、
「っ!!!!」
真凜の隣にいた花音も、俺の口を責めまくる。
いきなり二人の美少女からキスされた俺は、呆気に取られ、開いた口が塞がらずにいた。
環奈の方に視線をやると、
彼女は時間が止まったかのように固まって、俺と同じく口を開けている。
「樹っち!」
「師匠!」
「な、なに!?」
「「だいしゅき」」
X X X
同じ時間
とあるキモデブside
工事現場
「もっと早く運べ!下手くそが!」
「……」
「聞こえんのか?だったらてめえはもう明日から来るな!今日が最後だ!」
「……くそが!黙れ!俺は高校時代にカースト最上位だったぞ!」
現場監督から言われたデブ男はそう言って、唇を噛み締めてからいつものペースで仕事をしている。
そんなデブ男が気に食わない現場監督は顔を顰めて、彼の背中を睨め付けた。
「ったく!いくら人手不足だからといって、あんなクズを雇わないといけないなんてよ……」
そう文句を言いながら、現場監督は続ける。
「葉山翔太、お前を見てるとな、人間は変わらない生き物だってのがよーくわかるぜ。ったく……二年前の太った犯罪者のやつの方が全然マシだな。そいつは口答えしなかったしよ」
と、現場監督は二年前の出来事を思い出しては、苦笑いを浮かべる。
追記
これで一部のストーリーは終わりですね。
でも、これはまだ序の口で、環奈、環、真凜、花音、その他の女たちを巻き込んでの血生臭い戦いは始まってもない状態です。
本当にやばすぎる展開(○○、○○、○○)は頭の中にいっぱいあるのですが、
他の作品の執筆もあり、大学院生活忙しくなりそうですので、二部は機会があればまた書かせていただきます。なので、フォローは解除せずにそのままでお願いします。二部の結末もすでに決まっていますので。
あ、できれば、作家フォローもお願いします!
おかげさまでラブコメ年間2位になりました!
でも、書籍化への道は遠いですね。
星やPVが高くてもそれが必ずしも書籍化には繋がらないことを身をもって知りました。
もらったリワードで反省会でも開こうと思います!
これまで貴重な時間を費やして私の小説を読んで下さった読者のおかげて、一部を最後まで書けました。
あと、やるべきことは、ご指摘をいただいた誤字の修正や、新作の発表くらいですかね。
キモデブの竿役に転生した俺は、寝取ることはせず、体を鍛える。すると、なぜかヒロインたちが寄ってくるんだけど…… なるとし @narutoshi
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