第100話 奴隷契約解除

男たちの喘ぎ声が聞こえる樹のパーソナルジム


 二年が過ぎた。


 学と立崎はいつも二人で勉強をし続けて、難関大学の法学部に見事合格。現在一年生として人生を満喫しながら通っているところだ。


 薄々気づいてはいたが、あの二人は実に仲が良く、大学に合格した途端、付き合うようになった。


 学のやつ、なかなかやるな。


 立崎は勉強もさることながら、容姿が優れたとても知的な雰囲気を漂わせる美少女だ。


 ぱっと見、立崎の方が学のやつにぞっこんって感じかな。まあ、単に見た目だけじゃなくて、彼の中身をちゃんと知れば、確かに魅力的だと感じざるを得ないはずだ。その点、立崎は学のことをよく理解している気がする。


 三上は、マーケティング学部に進学。正直、あまり関わりがないから、たまに環奈と一緒にご飯食べる時に話したりするが、人生謳歌してるっぽいし、まあいいだろう。


 啓介は正直、友達じゃなければ、俺の手に届かない遠い存在になりつつある。


 続けてファンタジアの新巻を出しており、そのイケメンな顔を自分のSNSやメディアなどに出しているので、女性からものすごい人気だ。だが、啓介本人はあまり興味がないらしい。


 花音は、ヤンデレキャラにおける最強最高声優と認められるようになった。どれほどすごいのかというと、新作アニメに出てくるヤンデレ役のキャラは例外なく彼女が独り占めしている。見た目にも変化が現れており、背も伸びて、胸あたりも膨らんできた。

 

 環奈や環さんには遠く及ばないが、彼女も子供を産むことのできる女になったということだろう。


 ずっと俺を師匠と呼んで、激しくスキンシップをしてくるが、彼女が女としてのフェロモンを出せるようになってからは気をつけている。


 俺の話をしようか。


「はい。その調子でもうワンセット行きますよ!」


「は、はい!」

「きついけど、頑張ります!」


 見ての通り、俺は男たちに筋トレを教えているところだ。無事に高校を卒業してからは、親と相談し、幾ばくかのお金を出してもらい、さらに銀行で金を借りて、転生前からずっと夢見てきた俺だけのパーソナルジムを開業することができた。


 ちなみに、環さんと啓介までもがお金を出すと言ってくれたが、それは流石にないと思って、親と自分の力でなんとか収まったって形だ。


 最初は果たして人が来るのか心配したが、俺が高校で所属していた筋トレ部の(筋トレに成功してイケメンになった)部員らが、積極的にSNSなどを通して、俺のジムを宣伝してくれた。


 宣伝はよって俺のジムの存在は瞬く間に広がり、ジムを経営する人が葉山を殴ったあの近藤樹であることが知れ渡るようになり、お調子者のニキたちが勝手に宣伝ポスターなどを作り、それをSNSに上げて、開業早々、俺のジムは名所になった。


『こんなデブでも、こうなります』


 という謳い文句と共に2枚の写真が編集されており、左側には、キモデブだった俺が葉山にいじめられている動画から切り取った俺の写真、右側には花音ちゃんがあげた上半身裸の写真。


 いや、花音があげたツーショット写真はまだ彼女のアカウントに残っているからまだしも、キモデブだった頃の俺の動画ってとっくに削除されているはずなのに、どこで手に入れたんだよ……


 デジタルタトゥー恐るべし……


 そう思いながら、冴えない感じの男たちを指導していく俺。

 

 入会したいと申し出る人があまりにも多過ぎて、マンツーマンでの指導ができないから、料金を下げて、より多くの人たちを同時に指導する流れになった。


 もちろん、中途半端な人はすぐやめるわけだから、昔の俺や学や啓介といった、主に冴えない感じのやる気に満ちた男性を受け入れている。


「はあ!近藤先生!まじで指導きついっすけど、だんだん筋肉ついてきてるし、めっちゃ健康になる感じっす!」

「汗やば!足もガクガク……でも、近藤先生みたいになりたいし、僕、家に帰っても頑張りますんで!」

 

 筋トレを終えた今日の最後のお客二人は、汗を流し、腕や足をぶるぶる震わせながら言う。だが、表情は実に明るい。


 俺はそんな彼らに、サムズアップして、言う。


「筋肉はわかりやすく言えば、破壊と創造の繰り返しです。病院に行くほど無理するのはダメですが、筋肉を決して休ませてはなりません!」


「「はい!近藤先生!」」


「ふふ」


 俺が笑顔で彼らを返し、彼らが去った後に運動器具などの片付けに取り掛かると、決まって彼女がやってくる。


「樹!」

「環奈」


 俺の彼女・神崎環奈である。


 お馴染みの黒髪に、若さと美しさ妖艶さが三位一体となって、女優顔負けのオーラを漂わせる顔。そして、すっかり環さんレベルにまで成長した柔らかいマシュマロ。


 黒いパンストとスカートにニットと単純な組み合わせだが、お世辞抜きにしても、環奈はとても綺麗な女だ

 

 そんな彼女が俺の方に駆け寄って、俺にキスする。それと同時に漂うフェロモン。だんだんと環さんの匂いに近づきつつある。 


 そしてこのフェロモンは、まるで他の男を排除すべく、男の匂いも放ったいる。


 そう。


 俺の匂いだ。


 彼女はエロ漫画のメインヒロインだ。


 その性欲は、別にここに記さなくともお分かりいただけるだろう。


 キスを終えた彼女に俺は訊ねる。


「大学どうだった?」

「つまんない」


 口を尖らせて文句を言う環奈。


「え?もっと楽しめよ。せっかく大学生になったから」

「早く、大学でいろんなことを学んで、樹を助けたいの」


 そう言って、汗まみれの俺に抱きつく環奈。


「まだシャワー浴びてねーぞ」

「……私、走ってきたから、一緒にシャワー浴びよう」

「環奈……」


 本当に可愛すぎるだろ……


 俺を助けると言って、経営学部に進学して、俺がトレーナーとして仕事に集中できるように、裏方で俺を支えてくれる。


 ああ、まじで妊娠させたい。


 環奈が卒業するまで、我慢しようと思ってたのに、


 これは……


 俺は、環奈と一緒にシャワー室の中へ入る。



X X X


真凜side


とあるセキュリティーが厳しいマンション


 真凜は一人暮らしを始めた。


 彼女は高校三年生だが、家にいることが嫌なので、親に相談したところ、OKをもらい、この一人暮らし用の高級マンションに住んでいるわけである。


『カロン&マロン』というようつべチャンネルで活躍する彼女は啓介から結構なお金をもらっており、家賃を払っても贅沢な生活ができるほどだ。

 

 自分のSNSではすでにフォロワーが25万を超えており、もはやマロンこと真凜は声優の界隈では結構注目を浴びるようになった。


 その彼女は、風呂を浴びてから寝巻き姿で自分の部屋に入る。


 自分の家に人は両親と花音以外入ったことがない。


 男をたぶらかして手球に取りまくることを得意とする彼女だが、樹から処女を奪われて以来、いかなる男性とも交際せずに一人で過ごした。もちろん、セフレや一夜限りの関係なんか、もってのほか。


 樹だけが自分の体を犯した。


 樹だけが、自分の心を奪った。


 樹だけが、


 

 好きだ。



 その事実と燃ゆる感情をひた隠しにして声優としての実力を上げてきた。


 かわいい花音ちゃん先生の厳しい指導にも耐えて、立派な声優になれるための礎は整った。


 あとは、


 一つだけ。


 そう思っていると、急に電話がかかってきた。


 ハッと目を見開く真凜は早く通話ボタンを押して、電話に出る。


「もしもし」

『あ、葉山真凜さんですね』

「はい!」

『今度アニメ化されるファンタジアの声優オーディションの結果が出ました』

「は、はい!」


 急に胸がバクバクする。

  

 不安と期待が入り混じる真凜の耳に聞こえるのは……



『おめでとうございます!合格です!』



「や、やっっっっっっったああああああああ!!!」


『素晴らしいです。新人さんなのに、ファンタジアのメインヒロイン役を演じるなんて……こんなことはなかなかありませんよ!』

「嬉しいです……」

『ははは!詳細は追って連絡いたしますので、私はこれで失礼いたします!』

「あっはい!ありがとうございます!」


 ファンタジアのアニメ化。


 莫大な予算が投入されるはずの一大プロジェクト。そこで、数少ないメインヒロインを演じる。


 ずっとようつべで活躍してきた無名新人声優としてこの上ない光栄。


 枕を抱きしめて喜ぶ真凜。


 そんな彼女にまた電話がかかってきた。


「ん?」


 さっきの人、なんか伝え忘れたことでもあるのかなと勘繰る真凜だが、携帯画面を見て、彼女の体は固まる。


『静川啓介』


 真凜は顔を顰めてまた電話に出た。


「……もしもし」


『君は奴隷じゃない。もう自由だ』





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