終わり、始まり

 20世紀末。復員船で帰ってきた時、故郷の荒廃ぶりにまた戦場に来たのかと勘違いしそうだったと、祖父は語った。わたしがまだ幼い頃だった。

 よれよれの、骨に皮が張り付いているようにしか見えない老人の語り口は鋭く、不思議な重みがあった。祖父がこの世を去って10年近くした頃、押入れから彼の日記を見付けた。

 祖父に大それた学歴はないけれど、とても綺麗な文字だった。役所に届け出したわたしの名前も祖父が書いてくれたのだと、あとから聞いた。

 彼の綴った文字からは、かつて語った言葉のような鋭さと重みを感じた。幼くて、日記を読むまで忘れていた記憶の底から、かつて聴いた音の連なりが蘇る。

 

 戦闘が終わった日のことを覚えている。銃声が鳴り止んだところで、私たちはその事実に対する反応を持たなかった。米軍からの武装解除命令、本国への帰還命令、それらに対する反応は身体が覚えていたけれど、戦闘の停止、戦争の終結、我々の敗北に対する反応を持たなかった。

 

 祖父の嗄れた声で語られたこの言葉が、どうしてわたしの脳みそにこびりついているのかは知らない。祖父が死んだ部屋で、祖父がいつも寝ていたロッキングチェアで、祖父の綴った日記を読む。


 その感傷的な文字の羅列に対する反応を、わたしは持たなかった。


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the sustainable Institution 原野光源 @KougenHarano

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