クロの星座 🌟
上月くるを
クロの星座 🌟
初冬の夕暮れどき、柊子はコンパクトな平屋建ての窓辺で本を読んでいます。
本といってもなぜかいまだに口ごもりがちになる(笑)電子書籍ですが……。
あなた、現役時代、あんなに紙のお世話になっておきながら、よくも平気で。
同世代からはそんな目で見られたりしますが、背に腹は代えられません。💦
加速する一方の老眼にとって、昼はともかく照明下での読書は苦役ですらあり。
で、折衷策として、昼間は紙、夜は文字の拡大自由なツールを選んだしだいで。
📚
冬至直前の短い日はとっくに暮れて来ているけれど、区切りのいいところまで。
そう思ったとき、キラ~ン、どこかでなにかが光ったような気がしました。✨
ふと顔を上げてみると、まだ一番星の時間なのに、空一面に星がさんざめいて。
そのなかでもウルっと大粒の金星にもっとも近い位置に、見たこともない星座。
それはくっきりと犬のかたちをしています。
十二年前に神に召された柊子の愛犬の……。
二十数個の青い星で成る星座は、生前の愛犬そっくりの困り眉&垂れ目。(笑)
相変わらずお人(犬)好しの顔をくしゃくしゃにして、あははと笑っています。
――まあ、クロちゃん、かあさんのところへ来てくれたのね。
お友だちをいっぱい連れ、にぎやかしに来てくれたのね。
柊子が微笑むと犬の星座はいっそう笑うので、あやうく犬のかたちがくずれそう。
強がっているけど本当はさびしがりやの柊子を、一番知っているのがクロなので。
🐶
小窓を開けるとぴゅ~っと寒風が吹きこんで、懐かしい犬の匂いを運んで来ます。
目の前の犬の星座が、どんどん滲んでゆく……その理由が柊子には分かりません。
なぜって、いろいろあった人生で、簡素に落ち着いているいまが一番幸せなので。
柊子の翼から飛び立った子どもたちやクロとの思い出がキラキラ輝いているので。
――でも、クロちゃん、おまえにはウソを言えないんだよね。
こちらにいるときから、決まって見抜かれていたものね。
一瞬、ゆらっとかたむきかけた犬の星座は、すぐに、たいせいを立て直しました。
相変わらずしっかり者の愛犬の星座に、柊子は『星に願いを』をそっと歌います。
――When you wish upon a star,
makes no difference who you are
Anything your heart desires will come to you……
本当はさびしいかあさんを慰めにやって来てくれて、ありがとうね、クロちゃん。
こちらの時間を精いっぱい輝かせたらそちらへ昇るから、それまで待っていてね。
クロの星座 🌟 上月くるを @kurutan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます