『ワタシ ミル シッポ』

禾口田光軍 わだてる

『ワタシ ミル シッポ』

 異次元に連れてこられたのかと思った。


 通学時はいつもと何も変わらない日常があった。夜更かししてネット小説を読んだせいで少し寝坊はしたが、朝食を急いで済まして忘れ物がないか簡単なチェック。夏に入ったこともあり汗だくで自転車をこいで学校に到着、今思えばこの時点で異変があった。ギリギリ遅刻しない時間だったので周りをよく見ることなく教室に飛び込んだところで、俺はフリーズした。俺が慌てて教室に入ったことで周りの視線を浴びたが、何もなかったかのように賑やかな教室へと戻った。


 俺がフリーズしたのは一気に視線を浴びたからではない……いや、まあびっくりはしたんだが、そこではない。教室の入り口で呆然としているところで予鈴がなる。俺は慌てて教室の窓際最後列の自分の席へと移動した。その際もチラリと異変を横目で確認する。


……なんでこいつら、尻尾を生やしてるんだ?




 短いホームルームを終えて、俺は持参しているラノベを鞄から取り出す。普段は周りを気にせずに読書に没頭するのだが、今日はそうもいかない。俺はラノベを読んでいるふりをしつつチラチラと教室を眺めて話を盗み聞きする。友人がいれば話を聞きに行けばいいのだけれど、残念ながら俺に友達はいない。よくよく見ると、尻尾を生やしているのは男子だけだった。大声で話している女子グループのせいで他の話は聞こえなかったが、要は「男子って単純」「めっちゃ笑える」「バカみたいでかわいい」とのことらしい。肝心の経緯が全くわからない。もっと情報を落とせ。俺に情報をくれ。




 結局、昼休みになっても何故男子が尻尾を生やしているのかわからなかった。廊下を歩いていると尻尾を生やした男子とクスクス笑っている女子しかいない。恐ろしいことに先生も尻尾を生やしていたのだ。これは異次元に連れてこられたと思っても仕方がないだろう。

 クラスの男子だけだったら、俺が入ってないグルーブチャットでそういう話があったのかもしれないが、中学校全体となれば話は違う。この中学校に通い始めて2年が経つが、去年はこんなイベントはなかったし、ハロウィンの時期でもない。ボッチであることは嫌ではないが、友人の一人くらいは作っておくべくだったな。


「おい、ボンクラ。パン買ってこいや」


 購買から買い物を終えて中庭に向かう途中で呼び止められた。いや、俺の名前はボンクラではないのだが、下手に反論したところで流れが良くなるわけではないのはもう学んでいる。俺を呼び止めたのは同じクラスの池面優也いけづら ゆうや、容姿端麗成績優秀でサッカー部のレギュラー、男女問わずに人気のある人望者だ。俺とは正反対の存在とも言えるだろう。そんな彼にもお知りに尻尾が生えている。


「ん」


 池面に頼まれるのはわかっていたので予め余分に買っておいた菓子パンとコーヒーパックを手渡す。池面の後ろにいる名前もうろ覚えなクラスメイトたちも、ニヤニヤして俺たちのやり取りを見ている。言っておくが、俺はいじめられているわけではない。そもそもいじめを公にするやつが人気者になれるわけがない。まぁ、多少口は悪いが。


「サンキュー、今日もお釣りはいらないからな」

「ん」


 そう言って池面が俺に小銭を渡してくる。きっちりお釣りのないように値段ぴったり。池面は俺がボッチであることを気にしているクラスメイトだ。クラスメイトに馴染めるよういろいろと気を遣ってくれているのがわかる。このやり取りも俺がクラスメイトに馴染めるようにと始めたらしい。池面の取り巻きからそう聞いた。


「おい、ボンクラ!池面さんに礼を言ったらどうなんだ!」

「そうだぞ!わざわざボンクラのために池面さんが世話してくれてんだぞ!」

「え……あ、その……」

「いいって、俺の自己満なんだから。ボンクラも良かったら一緒に昼飯行こうぜ」

「そ、その……俺……」


「あ、池面。ちょっといいか?」

「先生、いいですよ。ごめん皆、ちょっと行ってくるよ。先にご飯食べててくれ」


 本当に申し訳なさそうに俺にまで片手で謝罪しながら先生の後を追って姿を消す。それを見て取り巻き達は俺をスルーして解散。俺ももっとコミュ力高かったら……ボッチに慣れているけれど、人並みの青春に憧れはある。人と話すことに緊張して言葉が出ないせいで会話も続かない、そんな自分が情けない。筆談だったらできるんだけれどなぁ……。

 色とりどりの尻尾を見送りながらため息を吐いた。




 放課後になってなんとなく状況を理解した。発端はある男子学生の告白かららしい。この学校には俗にいう「高嶺の花」という存在がいる。俺と同じ学年で違うクラスの女子、高嶺華たかみね はなさんだ。

 彼女は入学当初から非常にモテている。ボッチも俺にさえ噂が入るほどの人気っぷりだ。そんな彼女がある男子学生の告白をお断りしたことから、この怪奇現象が起こった。


 始まりは一昨日の放課後。俺が寄り道せずに家に帰ったあの日、毎日のように高嶺さんは通称「伝説の桜の木」というところに呼び出され告白されたらしい。毎日のように時間を取られていた彼女はある秘策を練りだした。そもそも呼び出されても行かなきゃいいじゃん、と俺は思った。その彼女の秘策が今朝の異変に繋がっているとのこと。俺が盗み聞き……聞き出せたのはここまでで、彼女がどんな秘策を用意したのかまでは聞けなかった。

 というか、先生まで尻尾を付けているということは、先生も高嶺さんを狙っているってことか。世も末だな。


 今日は特に用事もないので直帰せずに部室に寄ることにした。この学校は『何らかの部活動に所属』というのが校則なので、残念なことに帰宅部というものはない。


「あら、今日は来たのね。他の人もいるから静かにね」

「ど、どうも……」


 俺が訪れたのは図書室、部室というのは図書室の奥にある準備室のことだ。俺を図書室の入り口で出迎えてくれたのは顧問をしてくれている御前静おんまえ しずか先生。通称は静御前で、生徒たちからも人気のある若い先生だ。担当は日本史世界史。趣味は読書。


「静かにしてるのなら自由にしていいからね」

「わ、わかりました」


 僕が所属しているのは文芸部。部員は俺一人の何故存続しているのか分からない部活だ。御前先生が裏で何かしたって聞いたけれど……知らなくていい真実ってあると思うんだ。準備室に荷物を置いて、図書室に戻る。窓を開けて外からの声や音を聞きながら明日の予習をするのが、学生生活の中で一番好きな時間だ。

 今日もいつもと変わらない部活動の時間だったのだが……残念なことにちらほら見える男子学生の尻尾だけではない。それ以上の異変が今日の図書室にあった。


「…………」


 何故か俺の隣に座る美少女の存在だ。クラスメイトの女子の顔と名前も一致していない俺だが、この美少女は知っている。高嶺華さんだ。空いている席はあるのに、何故俺の隣に座っているのか……尻尾を生やした男子学生の視線が痛い。


「…………あ」

「………………」


 だめだ、男子生徒でさえ話しかけられないのに、高嶺さんに話しかけることなんてできない。隣に座っているだけですごくいい匂いがする。緊張がやばい。あと、男子学生の嫉妬の視線がすごく痛い。俺が悪いのか?


「………………」


 緊張に耐えられず席を移動しようとしたところ、高嶺さんからメモ用紙を俺の机の上に置かれた。何か書かれているな。


『貴方は尻尾を生やしてないの?』


 …………字も綺麗なんだな、高嶺さん。視線は高嶺さんも合わせてないが『ここに座ってろ』って威圧感がすごい。また違う意味で緊張するんだが。これ、俺も返事したほうがいいんだよな。よし、筆談なら会話できるぞ。


『流行に乗り遅れただけです』

『噂は聞いてないの?』

『はい、今朝来たらこの状況でした。あと、高嶺さんが原因という話も聞きました』

『そう……ちょっと情報が捻じれているけど、間違ってはないわね』


  俺にメモを返した後、溜息を吐いて新たにメモに何かを書き始める。その吐息も色っぽくてドキドキするんですが。免疫のない男子学生なんて、それだけでイチコロなんですが。

 新たに渡されたメモ用紙にはこう書かれていた。


『ワタシ ミル シッポ』


 ……なんだ、これ?


『これが原因。一昨日私に告白したひとに渡したメモだよ』


 ……なるほど。『ワタシ ミル シッポ』ね。『私は尻尾を見る』ってことか。

 尻尾で何を判断するんだ?質か?量か?そういえば、九尾の先輩がいた気がする。それをするのなら狐耳を付けた美女にしてほしい。例えば……御前先生みたいな人に。


『高嶺さんは尻尾を見てどうするの?』

『どうもしないわ。私は正解にたどり着いた人の告白を受けることにしたの』


 正解……直訳通りって訳ではないということかな。まぁ、ほとんどの男子学生と一部の先生に生えている尻尾で何を区別するのか分からないし……とりあえず先生は罰されてほしい。

 筆談をしていると時間もいつの間にか過ぎていて、気が付けば下校のチャイムが鳴っていた。筆談とはいえ、こんなに話したのは初めてかもしれない。しかも相手はあの高嶺さんだ。恋に免疫のない男子学生なら勘違いするだろう。俺がそうだ。

 俺は今日、高嶺さんに恋をした。




「しかし……これはどういうことなんだろうな」


 俺は家に帰りつくなり自室のベッドに寝ころびながら高嶺さんのメモ用紙を眺めていた。気のせいか、メモ用紙に高嶺さんの香りが移ってる気がする。

 『ワタシ ミル シッポ』……『私は尻尾を見て決める』ってことではないはずだ。それが正解だったら彼女はすでに告白を受けている。俺が見たところ、ふさふさ具合は池面、目立ち具合は槍間先輩だったなぁ。

 それにしても……なんでカタコトなんだろう。高嶺さんはハーフではないし、英語が苦手って聞いたことないし。カタコト……英語?


 ベッドから体を起こしてあまり使っていない勉強机に向かう。『ワタシ』はそのまま『I』で『ミル』は『見る』ってことで『Look』か。『シッポ』は『尻尾』だろうから『Tail』で続けると『I look tail』……何だこりゃ?いや、文法的に『I look at a tail』か。……だから何だ?まぁカタコトで文になってないから、『I look tail』か。 


 なんというか、納得できないなぁ。何か間違えている気がする。その何かがわからないや。


「ご飯できたわよ!」

「は~い!」


 夕ご飯の時間だ。食べたら何か思いつくかもしれない。実際、夕ご飯の家族団らんのおかげですっきりすることができたから、息抜きは大事なことだと再確認できた。




 翌日も男子学生のほぼ全員が尻尾をつけていた。昨日よりもつけている人が多いのは、噂がさらに広まって用意したのだろう。

 ……もしかして、尻尾付けてない学生って俺だけ?

 今日も今日とてボッチで過ごし、いつも通りに昼休みに購買に向かっていた。俺のクラスから購買に向かう途中で通る高嶺さんのクラスをちらっと覗いてみたり、購買に来ているかどうか姿を探してしまったりするようになったのは思春期男子学生のあるあるとして流してほしい。

 ところが、俺の些細な変化を見抜いた奴がいた。


「おい、ボンクラ。お前高嶺さんに迷惑かけるつもりじゃないだろうな」


 池面だ。購買からクラスに帰る途中、高嶺さんの教室を覗いたところで腕を引っ張られて階段まで連れていかれた。周りにはいつもの取り巻きがいる。池面も取り巻きもいつも以上に険しい表情だから圧がすごい。

 俺を取り巻きが囲み、俺の胸倉を掴みながら池面は続ける。


「高嶺さんはその名の通り高嶺の花なんだよ!お前みたいなやつが近寄るんじゃない!」

「あ、いや……その……」

「昨日も図書室でお前、わざわざ隣に座ったんだってな!周りにも迷惑かけるなんて最低だぞ!」

「そ、それは違——」

「言い訳なんて女々しいことしてんじゃねぇ!優しい高嶺さんが気を遣って許してくれたそうだが、二度とするんじゃねぇぞ!」

「許し——」

「高嶺さんと付き合うのは俺だからな!いいな、高嶺さんに迷惑かけんなよ!」


 俺から焼きそばパンを奪い取り、池面は取り巻きを連れて教室へと戻っていった。そんなに俺はわかりやすかったのかな。連れてこられた際に掴まれた腕が痛いや。

 教室に戻りづらいし、俺も移動しよう。




「あら、こんにちは」


 人気がいないと思って来た体育館裏。そこには先客がいたので物陰に隠れていたんだけれど、気付かれていたみたいだ。気付いてくれてうれしい反面、関わりたくなかったから見逃してほしかったなぁ。

 俺が着いたときにはすでに告白の場面だった。告白していたのは尻尾を生やした知らない男子学生、告白されていたのは俺が昨日恋をした高嶺さん。そんな場面に遭遇したら、回れ右しかないでしょ。

 だから近くの物陰にいたのに……。


「昨日ぶりね、今日も図書室に行くの?」

「あ、はい……」

「そう、私も今日本を読みたい気分だからお邪魔してもいい?」

「あ、はい……」

「私もここでご飯食べてもいい?」

「あ、はい……え?」

「ありがとう、失礼するわね」

「…………え?」

 呆然している俺をよそに、高嶺さんが隣に座る。

 ……え?俺、今日死ぬの?

 最高に幸せな昼休みは何も話すことができずに、あっという間に時間が過ぎた。恥ずかしくて高嶺さんの顔すらまともに見れなかったけれど、時間が止まってほしいって初めて思えたんだ。


 そして放課後、高嶺さんが本当に図書室に来ていた。昨日図書室に高嶺さんが来たことを知った男子学生を連れて。さすがに御前先生が数人追い出していたけれど。そりゃ、図書室で大声出してれば追い出されるよ。

 できれば高嶺さんの近くに座りたかったけれど、今日は諦めようと思った。

 高嶺さんの答え合わせをしたかったが、池面が高嶺さんの隣に座っていたからだ。池面……部活はどうした?

 今日の図書室はいつもより人が多い分、なかなか集中できなかった。これは言い訳だな、人数ではなく、高嶺さんと池面の方に視線がいってしまう。御前先生、あいつ喋ってますよ。追い出しませんか?


 今日高嶺さんに渡そうとしていたメモ用紙。これを渡すのは後日かな。

 池面が俺を警戒しているのか、あいつからの視線の圧がヤバい。あの席に近寄ると多分絡まれるだろうなぁ。高嶺さんにも迷惑かけたくないし、御前先生に追い出されたくないし……ありきたりだけれど下駄箱にでも入れておこうかな。

 読み終えた小説を本棚に戻しに行く際も高嶺さんに目が行ってしまう。このとき、高嶺さんと目が合ったのは俺の妄想だと思ってた。


「ちょっとごめん、少し付き合って」

「……へ?」

「こっちは見なくていいわ。そのまま会話に付き合って」


 びっくりした。次読む小説を探していたら突然告白されたのかと思った。慌てて振り向こうとすると、声で止められる。俺に話しかける女子なんて、家族か高嶺さんくらいだ。高嶺さんから『付き合って』って言われてみ?これが尊死ってやつか……。


「ごめん、ちょっと疲れたからここで休ませて」

「や、休む……?」

「えぇ、あの席は休めないのよ。本もちゃんと読めないわ。何しに図書室に来てるんだか」

「そ、そう……」

「ごめんなさい、ここは貴方の場所だったのにね。私が来たから人多くなってしまって」

「ち、違っ……」

「しーっ。騒いだら御前先生に怒られるし、池面くんにも気付かれるわ。貴方、警戒されているもの」


 え?それ高嶺さんも知っているの?


「昨日みたいにゆっくり過ごせたらって思ってたんだけれど、ね。まぁ昼休みにゆっくりできたからまだ良しとするわ」

「あ、あのっ」


 俺は慌てて学生手帳に挟み込んでいたメモ用紙を取り出し、高嶺さんに差し出した。

 そのメモ用紙を受け取った高嶺さんはじっと書かれた文字を見つめる。これが求める解答でなかったら恥ずかしい。

 沈黙は数秒のはずだったが、俺には数分に感じた。背中には汗が流れているし、足も震えている……気がする。そして、軽くうなずいた高嶺さんは俺の顔を見た。


「ちょっと話したいんだけれど、静かで誰も来ない場所ってある?」

「そ、それなら準備室が……一応文芸部の部室ですから」

「使わせてもらっていい?私文芸部じゃないけれど」

「た、多分大丈夫だと思うよ、御前先生にも確認取ってくるから」

「ありがとう、準備室ってあの扉よね。貴方が入った後で私も向かうわ」


 密室で二人きり……というシチュエーションに気付くことなく、顔を赤くしながら御前先生に部室使用の許可を求めた。顔を赤くしていたせいか、御前先生にからかわれたが許可を得ることができた。


「がんばっておいで」


御前先生に背中を押され、俺は準備室に入って折りたたみ椅子を用意する。高嶺さんがこの部屋に来るのは容易ではないと思う。俺がこの部屋に入ったことは池面も見ていたはずだし、高嶺さんがこの部屋に入ろうとすると邪魔するだろうな。


「お待たせ。用意してくれてありがとう」

「あ、いえ……あの、大丈夫ですか?」


 俺は準備室の扉に視線を送りながら尋ねた。池面や取り巻きの声がするからだ。狭くはないが、この部屋に全員が押しかけてくるのは嫌だった。


「大丈夫よ。御前先生が止めてくださってるから」

「あぁ……そ、そうなんだ」

「それで、このメッセージのことなんだけれど」


 おそらく追い出されたのだろう、扉の前の喧騒がなくなり静かになった準備室。さっき渡したメモ用紙を高嶺さんが見せる。

 そこには俺の字で『愛している』と一言書いていた。


「『I see tail』で『愛している』ね、正解。簡単だったかしら」

「あ、いや……少し難しかったかも。『見る』が『Look』じゃなくて『See』に気付いたのはたまたまだったし」

「そう?皆は気付いてないみたいだけど」

「たまたまテレビを見たときに……アニソンが流れてその歌手の名前にSeeってあったから……僕が初めて気づいたの?」

「うん、少し考えたらすぐ解けると思ったんだけれど、何故か皆コスプレ始めたから面白かったわ」

「そ、そう……あの、もしこの答えに何人もたどり着いていたら、どうしてたの?」

「生理的に無理な人じゃなかったら先着順にする予定だったわ」


 生理的……ちょっと自信がない。


「大丈夫よ、貴方は無理じゃない。むしろ好感をもってるくらいよ。無理に話しかけてこないし、私に気を遣ってくれているし」

「そ、それは……人と話すことに緊張して……」

「別にきにしてないわ。慣れるまで筆談でも構わないもの。筆談の方が貴方の素が出てるみたいで楽しいもの」


 さっきまで池面たちに見せていた作っている笑顔と違い、柔らかく笑う彼女にまた見惚れてしまっていた。ここで改めて告白しようとさっきまで思っていたのだが、頭が真っ白になってしまった。高嶺さんに告白してきた男子たち、よく言葉にできたな。尊敬するよ。


「……私から言わせてもらうわね。貴方のこと、何も知らないけれど私を彼女にしてもらえませんか」

「えっ!あ、はい……彼女になってください」

「ありがとう。よろしくね……えっと、ごめんなさい。順序ってあるよね……まず自己紹介から始めましょうか」


 気を遣わせたようで申し訳なくなった。それに考えたら俺、何もアピールしてなかったな。

 明日からいろいろと学生生活が激変すると思うけど……がんばれ、明日の俺。


「お、俺の名前は梵蔵馬そよぎ くらま。改めまして貴女のことが好きです、付き合ってください」

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