田舎の裸

高黄森哉

バカ者

 よそ者、と言えばよそ者なんだろうここではな。確かにそうだ。だが、俺様は田舎者ではないぞ。都会っ子だ。田舎へ来ることなんてないと思っていた。しかし、現に来ている。それは取材のためだった。

 

 嗚呼、田臭がするぞこの風景。山々が遠くに連なっている。こんな壮大な景色に日々、見下ろされたら、心がひねくれてしまうに違いない。それに比べて都会のビルは寄り添っている感じがする。もっと身近で、尊大でない。人の手が加わっていて温かみがある。


 第一村人がいた。それはしなびた爺さんだった。しなびたと見て取れるのは、爺さんが裸だからだ。そんな姿を見て損をした、と思った。きっと畑仕事でもしに出掛けるんだろう。運転席の若手に声を掛ける。「見たか」と。すると、「何がですか」ととぼけやがった。そういえば、こいつ田舎育ちだったな。ふん、これが日常なんだろう、野蛮人めが。


 車は村に差し掛かる。そこには婆さんや爺さんが座っている。俺はなるべくそちらを見ないようにした。なぜなら、しなびていたからだ。「おい。どうしてこの村の人間は服を着たがらないんだ」、俺は叫ぶ。「なんのことですか?」と、若手はとぼけた。こいつめ、いつもはエリート経歴を鼻にかけてるくせに、けっ、馬脚を現したな。この、かっぺの呪いは染みついて取れないんだよ、カス。


 ついた。ここが伝説の着物を織るという職人の仕事場。聞くところによると三児の母らしいじゃないか。何が伝説だ。オカルトなんて信じないぞ。閉塞的な空間にいると心が塞いでしまい、集団ヒステリーが起きる。そしてそれが伝説の正体に違いない。馬鹿め。やはり、いなかっぺは低能だ。かっ、けっ。ぺっぺっぺ!


 「今日は取材になりましたってええええ!」


 その女は裸だった。こどもが太腿にまとわりついていた。その子供も裸だった。俺は児童のすっぽんぽんを見て、犯罪を犯した気分になった。股間にも胸にも何もない流線形フォルムは非常に煽情的に感じられたのだ。きゅっと切れ長のお尻が引き締まる姿。


「おおお。服を、服を、」

「あら、どうしたんで。あら、見えないんですか。それは悪いことをしました」

「見えない?」

「ええ。ウチはね、裸の王様の童話、そのモデルとなった地域なんです。もっとも、この地域に伝わる着物は、まがいものではなく、本当に馬鹿には見えないのですが」

「ははあ、つまり俺は、」

「大馬鹿ものですね」










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田舎の裸 高黄森哉 @kamikawa2001

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