ヒナ鳥にサヨナラ オマケ 後日譚

 会社で光城さんと顔を合わせた。

 光城さんは余裕のある笑みを浮かべて私を見ている。怖いし、目を知らしたいし、逃げ出したい。だけど、私は、奥歯を噛みしめて光城さんをじっと見つめ返した。

 光城さんは、私の前にツカツカと歩みより、私たちは正面から対峙する。こうして真正面に立つと余計に怖い。

 だが次の瞬間、光城さんの笑みが柔らかくなった。

「いい顔になったじゃない」

「え?」

「ちゃんとヒナ鳥を卒業できたみたいね」

 その声には満足そうな空気が含まれていた。

「あの子は、あと一歩が足りないから」

 光城さんはため息交じりに言う。

「え? どういう意味ですか?」

「ヒヨコちゃんをかわいがり過ぎて、過保護過ぎだったのよ」

 私は首を捻る。

「えっと、高乃さんに、私と別れるように言ったんじゃ……」

「そんなこと言ってないわよ。そろそろ手を離してもいい頃だって教えただけ」

「それは、別れろということではないんですか?」

「違うわよ。って、別れちゃったの?」

「いえ、別れてませんけど……」

 別れそうになったとは言わない。私の言葉に、光城さんはホッとした顔で「そう、よかった」とつぶやく。

「あなたの手を引いて導くことは必要なことだったと思う。だけど、いつまでも手を離さずに、何もかも梓が先回りしていたら、あなたは何もできなくなってしまうでしょう? まあ、それをちょっときつめに言っちゃったんだけど」

 それで、高乃さんは思いつめて別れるしかないとまで思ってしまったのか。

 光城さんは満足気な笑みを浮かべて私を見ると、「そのうち一緒に飲みましょう」と言って颯爽と歩き去った。

 光城さんと話して腑に落ちた。高乃さんにとって私がヒナ鳥だったように、光城さんにとっては高乃さんがヒナ鳥なんだ。

 だから、高乃さんがどれだけがんばって成長したとしても、光城さんは心配なのかもしれない。高乃さんのことを「過保護過ぎる」と言っていたが、光城さんも充分過保護な気がする。

 もしかしたら、これからも光城さんに振り回されることがあるかもしれない。

 そのときが来たら、胸を張って対抗できるようになろう。もう、ヒナ鳥ともヒヨコとも呼ばれないようになろう。

 私はそう心に誓って、光城さんの後ろ姿に小さく頭を下げた。



    おわり


久遠さんがヒナ鳥を卒業したので、ヒナ鳥シリーズはこれが最終話です。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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ヒナ鳥の育て方 悠生ゆう @yuk_7_kuy

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