アイアンの猫

#365日ショートショート 123

　午後のひととき。その喫茶店では軽快なジャズが流れていた。

「なあ、知っているかい。条件反射の小噺を」

「知らないわ。なんの話？」

　カウンターの隅でカップルが話し込んでいる。

「これは実験。熱した鉄板の上に猫を乗せるんだ。するとどうなると思う？」

「まあひどい。焼け死んでしまうじゃないの。動物虐待だわ」

「猫は熱くてたまらないから、手足を鉄板に着けないようにあっぷあっぷと滑稽に動き続ける。それに合わせてすぐ側で、フルートで愉快な音楽を吹いてやるんだ」

「なんてことを……」

「それを何日も続けていく。やがて鉄板が無いところでフルートを吹くと、猫は手足を上下に動かして踊り出すのさ。猫もそれを不思議に思うが、体がつい反応してしまう。これが条件反射のメカニズムなんだ」

「なるほど、よぉく分かったわ」

　そう答えつつ、女はきょとんと、目を丸くした。

「なんだ、一体どうしたんだい」

「週末はいつもこの喫茶店にふたりで来ているから、つい、気づかなかったわ」

「だからなんの話をしているんだ」

「あなた、この店でジャズを耳にすると偉そうにウンチクを語るのよ」