第2話 派遣主人公 第一号
「カタリテ」と呼ばれた私の一声により、7名の主人公は口を閉じ、やがて不良が…
「…で? 誰が誰の代わりをすんだよ?」
ヒーローもの、魔法少女、異世界もの…この3つが特に人気だということで始まった「主人公のローテーション」の提唱。不良の一言に、残り6名も私の言葉を待っているようだった。
【まずは試験的に、3名のうち最も需要のあるジャンルと、4名のうち最もマイナーなジャンルの者を入れ替えてみてはどうだろう】
「つまりあれか? 一番人気のねぇヤツが、一番人気があるヤツの代わりをしろってことか?」
【…例として、ヒーローのファイアレッドを日常の
「おい! なんか話逸らしてねぇか!?」
武内拳の怒鳴り声をあえてスルーしていると、名前を挙げられたファイアレッドが口を開いた。
「確かにそうですな! 和真クンはヒーローとして空を飛んだり、人々を救ったりなどといった経験は無に等しい! なのでワタシが先生となって手解きをする…と!」
【さすがは臨機応変に動くヒーローといったところか。その通りだファイアレッド】
ファイアレッドは頭をかきながら、満面の笑みで「恐縮です」と答えた。
「それで…肝心のメンバーはどうなるんすかね…?」
次に口を開いたのは、同じく例として出された佐藤和真だった。
【まずは君たちで話し合ってみてほしい。誰が人気で、誰が不人気か】
「おい! コイツいま思いっきり『不人気』つったぞ!」
スピーカーに指をさしながら抗議の声を挙げる武内拳だが、通信が切れたことに気がつくと舌打ちをしつつも口を閉ざした。
「…とりあえず、一番人気だと思うジャンルの人に、せーので指さそっか!」
魔法少女のアクアマリンの提案と、彼女の「せーの」の合図に、皆のものの指先が動き始める。
「…やっぱりこうなるかぁ」
アクアマリンは苦笑いをした。満場一致で、7名の指が1名を指し示したのだ。
「おいてめぇ! 自分を指さすのはどうかと思うぞ!?」
「仕方がないではないか。自他ともに認める人気ジャンルなのだから」
脚を組みつつ自意識の高い発言をしたのは、
「よし、一番は海斗くんね! じゃあ次は…一番退屈してそうな人はぁ? せーの…!」
「ちょっ…退屈してそうって…」
武内拳がアクアマリンを問いただそうとしているうちにも、残りの全員は人差し指を向け終わった。嫌な予感がした武内拳はおそるおそる周りを見渡した。
…全員が、武内拳を指さしている。やがてアクアマリンに体を向き直すと、彼女もいつの間にか指をさしていた。
「こちらも満場一致だなっ!」
ファイアレッドは腰に手をあてて大笑いした。アクアマリンも少し笑い、伊勢海斗は腕組みをしたまま下を向く。
「おい…」
【どうやら上手くまとまったようだな】
私はスピーカーに声を吹き込む。次の瞬間にはどういうわけか拍手まで巻き起こった。
「初めてのお勤めかぁ…」
「人聞きの悪ぃこと言うなよ!」
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「武内拳、早速だがこれから一緒に異世界に行ってもらう」
「…今からか?」
「ああ、今からテレポートする」
あまりにも早い展開についていけないといった様子の武内拳は、周りのメンバーになんとか考え直してもらうように呼びかける。しかし…
「不良系の作品は埼玉リベンジャーズ以外は見向きもされない。大人しく行ってこい」
と、
「恋愛は人気ジャンルだから、私はしばらく異世界には行けそうもないかなぁ…」
と、早乙女アリス。
「僕も異世界には興味あるけど…平凡で冴えない人が無双だなんて今さらだし…何より僕と同姓同名の主人公がもう存在してるし…」
と、佐藤和真。
このように、突如として不良ジャンルの主人公を降ろされそうになる武内拳の肩を持つ人間は誰もおらず…
「ふっざけんなマジで! オレはぜってぇ認めねぇぞそんなの!」
「武内くん、この際だからはっきり言わせてもらうわよ」
アクアマリンがひときわ大きな声を出し、武内は何を言い出すのかと押し黙る。
「不良が1人減ったくらいじゃ誰も困らないし、むしろみんなが安心できると思うの」
無慈悲な一言に、武内はもちろんそれ以外の5人もばつの悪そうな顔をする。そして彼は、なんとか反論しようと口を開いた。
「…そ、その理屈だとよ? オレが言うのもなんだけど…異世界のヤツらが困るんじゃないか? 不良が来るんだぜ?」
「問題ないわ。そもそも異世界ものの主人公って、常識知らずで生意気な人ばっかりなんだから。不良が異世界に行ったところで誰も拒まないわよ」
7人の間にしばしの沈黙が訪れ、当の「常識知らずで生意気」に該当するであろう伊勢海斗がその沈黙を破った。
「…そういうわけだ。ものは試しに、とりあえず異世界に行こう。このブレスレットを右手にはめてくれ」
何も言えない武内拳は、溜め息をつきながら言われた通りにし、それを確認した伊勢海斗は呪文を唱えた。
「我が名はイセ・カイト。我と共に、タケウチ・ケンを世界へ導きたまえ…テレポート」
胸元の赤いペンダントに右手をあてた伊勢海斗だけでなく、武内拳の体も赤い光が包み込んだ。
「てめぇら覚えてろよ。特にアクアマリン…てめぇだけはいつかブチのめしてやる…」
不良は、不良らしく凶暴な独り言をつぶやいた。その声が残された5人の耳に届いているかどうかは…分からずじまいである。
アナタもワタシも主人公 サムライ・ビジョン @Samurai_Vision
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