アナタもワタシも主人公

サムライ・ビジョン

第1話 集まる主人公たち

「…まだ誰も来てない…か」


 ひとりの男子高校生が、真っ白な部屋の中へと入ってきた。ドアも含め、床も壁も天井も、大きな円卓や均等に配置された椅子も、目に映るほとんどが殺風景な純白である。


 しかし、ふたつだけ…白ではないものが部屋の中にはあった。

 ひとつは、楕円のテーブルの中心に備えられた長方形の黒いスピーカーだ。

 そしてもうひとつは、椅子と同じ場所に配置された三角形のネームプレートだ。それ自体は例によって白であるが、書かれた文字は黒である。


「…」

 学校指定のカバンをに置いた男子高校生は、とある席をじっと見つめたのち、口元を緩めながら近づいていった。

「よいしょ…へへっ」

 彼が座ったのは入口と対面するように構える3つの席。

 その中央の「」の席だった。

平均的な男子ということもあって、他の椅子となんら変わらない白い椅子に、彼は満足げに腰かけた。


 そのとき、ドアの開く音が聞こえた。彼は慌てて椅子から降りようとし、隣の椅子に膝をぶつけながらもなんとか取り繕った。


「おやおや和真クン! ワタシの席に興味深々といったところかな!?」

 入ってきた屈強な男は赤いヒーロースーツにその身を覆われていた。


「ちょっと和真くーん。アタシの椅子に体ぶつけたなー?」

 その男に続くように入ってきたのは、身長150センチ弱の小柄な少女だった。水色のツインテールにセーラー服という出立いでたちである。


「すいません…いやぁそれにしても、珍しいですね。ファイアレッドさんもアクアマリンさんも、普段は忙しくてなかなか来れないはずなのに…」

 人の席に座ったり、人の椅子にぶつかったりといった小さな過ちをごまかすように、和真と呼ばれた男子高校生は話を振った。


「今日はたまたま余裕ができたからね! それに今日は…」

「今日は大事な話があるって聞いたから、アタシたちもなんとか時間を作ってきたってわけ!」

 ファイアレッドの発言がアクアマリンに遮られ、当のファイアレッドが不服そうな顔をした頃…

 ドアが開かれ、とある男が顔を出した。


「ほう…」

 黒のロングコートと癖毛が特徴的なその男は、部屋にいる2人を見てそうこぼした。

「いって…急に止まんなよおっさん!」

 その後ろには、男にぶつかった金髪の男子が抗議の声を上げた。

「まぁまぁ…わざとじゃないみたいだし…」

 茶色いポニーテールの女子が、さらにその後ろからなだめる。


「よし、みんな揃ったな! とりあえず席についてくれ!」

 ファイアレッドの一声に全員が…金髪の男子でさえも素直に席についた。

「ファイアレッドさん」

「ん? なんだい和真くん」

 和真は左側の空席を見ながら、答えた。

海斗かいとさんは…やっぱり来れなかったんですね」

「ああ。なにせ海斗クンはの人だからな! いくら重要な会議とはいえ、そう簡単にはこちらの世界に戻れないのさ!」

「ですよねー…」


 楕円形のテーブルに、ファイアレッドを中心として椅子は7つ。

 時計回りにアクアマリン、早乙女さおとめアリス、武内たけうちけん。反時計回りに伊勢いせ海斗かいと佐藤さとう和真かずま家入いえいり慎二しんじというメンバーだ。


「みんなも知ってると思うけど、ここ最近は『主人公』がどんどん辞めてってカツカツなんだよねー」

 次に口を開いたのはアクアマリンだった。

「…説明を代ろうとしてくれる心配りには感謝するよアクアマリン。だけどここはこのワタシ、ファイアレッドが…」


「いや、ここは俺が説明する」


 家入慎二以外の全員が呆気にとられた。どこからともなく、空席に男が現れたのだ。

「オ、オッホホー! か、海斗クンじゃないかぁ!」

「それっていわゆるテレポート?」

 口々に喋ろうとするファイアレッドとアクアマリンをよそに、海斗は口を開いた。


「単刀直入に言う。我々は、主人公をローテーションにすることを検討している」


 その一言に、ファイアレッドとアクアマリン以外の4人がざわめいた。

「え、ちょ…どういうことですか?」

「そのままの意味だ」

 佐藤和真はありふれた反応を示した。


「はぁ? ふざけ…ちゃんと説明しろよてめぇ!」

「我々3人の代わりに、たまにでいいので主人公をやってもらいたいのだ」

 武内拳は凄み、伊勢海斗は説明した。


「え…じゃあ私は、恋愛をする片手間に世界を救うってこと…?」

「そうなるな」

 早乙女アリスは、自らのと書かれたプレートをそっと撫でた。


「待ってくれよ。そのようなことを決める権利は3人には…」

「もちろんない。ないからに応えてもらうのだ」

 珍しく冷や汗をかいている慎二。

 そう、これは主人公たちの一存でどうこうなる問題ではない。


「…と、いうわけで」

 ファイアレッドはふいに声を出し、名前を叫んだ。


「カタリテさん! いらっしゃるなら応答をお願いします!」

 ありったけの大声で呼ばれたからには、


 私はスイッチを入れ、マイクに顔を近づけた。


【私はここにいる。人手の足りない君たちの要望は、きちんと私が受け止めた】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る