第4話 発掘調査員のおじいさん
気づいたら、ぼくは、ごうごうと青嵐の吹きわたる地面にうつぶせに倒れていた。
長方形の小石スペースのすぐそばだったけど、卑弥呼さんたちはもういなかった。
――おおい、大丈夫か~? ('ω')
声をかけられて見上げると、水色の作業服を着た銀髪のおじいさんが立っていた。
首からぶら下げた名前プレートに「教育委員会発掘調査員」という文字が見える。
古墳山に小学生がひとりでいたから、それとなく注意して見ていてくれたらしい。
調査員のおじいさんは「よくあるんだよな、こういうこと……」さらっと言った。
そのまま口を濁したが、古墳に入ったまま二度と出て来なかった人もいるらしい。
「ヤンチャな卑弥呼さんも子どもにはやさしいから、5分で帰してくれたんだな」
ひとりうなずきながら、調査員のおじいさんは、早く帰りなさいと促してくれた。
日が暮れると地下の住人たちが月や星を見にゾロゾロ出て来るから、その前にと。
これはぼくの勝手な想像だけど、ずっと古墳室暮らしの卑弥呼さんたちは、地上の空気に飢えているんじゃない? そういえば奥に開かずの部屋があったような……。
いくら空想好きでも、あの部屋の中にまで翼をはためかせるのは、ちょっと怖い。
置いてけぼりにした卑弥呼さんたちには申し訳ないけど、とりあえずは、ほっ!
🧙♂️🦎
人工の山の証しみたいに傾斜がきついので、上りは、ものの数分で息があがるし、下りは下りで思わず叫びたくなるほど急坂だから、あちこちの筋肉が悲鳴をあげる。
街に近いからうっかりしたのか、スカートにパンプス、日傘の軽装で、木漏れ日の木道の途中で汗を拭いている女の人に「どうも」と会釈しながら、ぼくは下山した。
幅の狭い市道を少し歩くと、そこはもう、通俗きわまりない下界そのものだった。
ついさっきまで、古墳室の卑弥呼さんや奴婢たちと話していたのがうそみたいだ。
ファミレス、ラーメン店、ファストフード、イタリアン、回転ずし店、スーパー、コンビニ、車のディーラー、古書店etc.……21世紀がひしめく通りを家へ向かう。
🍜🍔
――国見ヶ丘の「国」はわたしにとって西の山脈の向こうの邪馬台国のことなの。
なつかしい人たちが眠る国を、ここから見守っていられることに感謝しているわ。
ここだけの話だけど、弟は、じつは妹なの、男性のようにふるまっていただけで。
妹は心から姉のわたしを慕ってくれたのに、わたしは男性を愛してしまって……。
だからね、わたしのあとを追って喉を突いた妹の心持ちが、愛しくてならないの。
きょうだいってそういうものじゃないかしら、近すぎて見失いがちになるけれど。
あっ、そうそう、皆既月食の晩には、かならず国見ヶ丘を眺めるって約束してね。
わたしたち総勢100余名、古墳山のてっぺんで歌い踊って祖国をなつかしむから。
🌔🦕
卑弥呼さんとの約束を思いながら振り返ってみた古墳山は薄紅色に染まっている。
プチ家出の事実を忘れていたぼくは、ココに会いたくてたまらなくなった。🐶
古墳室で卑弥呼さんに会ったこと、ぼく、ココ以外の家族には話さないだろうな。
そして、う~んと勉強して歴史学者になり、卑弥呼さんたちを救ってあげるんだ。
大丈夫、千何百年も待ったんだから、ぼくが大人になるのは、あっという間だよ。
それまでポジティブシンキングで待っていてね、卑弥呼さ~ん。ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
国見ヶ丘古墳の謎 🔮 上月くるを @kurutan
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