スワローガール――好きだと気づいて自覚して


 その後のあーしは部活専念だ。といっても一年は走れる身体を作る走り込みが主なトレーニングだ。この時にもなれば監督の秘蔵っ子と噂の「雨宮あめみや リア」の顔と名前も覚えた。意外だったのは彼女も毎日の走り込みに参加している事だった。どうやら、監督は特別はしないらしい、そこは妙に好感は持てたが、雨宮とは特に会話なんてすることもなくトレーニングの毎日は続いていった。


 そんなある日にいきなり降ってわいたのはレギュラー決めの紅白戦だ。しかも学年関係なしに実力を見てレギュラーを決めるというのだから、やる気にならないわけはない。


 だが、あーしはそのやる気が空回りし、レギュラー取りに焦ったらしくない責めたプレイをして、雨宮リアに真正面からテクニカルに追い抜かれていった。まるで歯牙にも掛けられていない敗北感を味わうのは初めてだった。その後は何も目立ったプレイをすることもできず紅白戦は終わった。結局これでレギュラーは決まらなかったが雨宮リアて同世代の怪物にあーしの精神メンタル鼻柱はなっぱしらはへし折られていた。



 数日後、ユウが雨宮に告ってフラレたて話を噂話で聞いた。

 折られた精神が響いたままでいたあーしの心は、なぜだかフラレたユウを心配していた。あの日、人違いと言い張ってから一度も会ってはいないのになんでだろうな。




 妙にユウの事を気にしていたせいだろうか。部活に向かう途中の裏門自転車置き場にユウの姿を見つけた。一瞬、声をかけようかと迷い歩くスピードが遅れユウに気づかれてしまった。


「あ、ツ――寺島さん?」

「人違いだって言ったけど」

「ごめ――でも、もう顔見知りて事じゃだめかな?」

「まぁ、それもそうだけど」


 随分な屁理屈にも感じたが一理あると思ってしまったので立ち止まって軽く話をすることにした。


「これから部活?」

「そうだけど、女子サッカー部」

「そうなんだ」


 妙に話が続かない。このまま切り上げてもよかったけど、なぜだかまだ話がしたくて会話の糸口を探した。


「雨宮のこと好きなの?」

「え? あぁ、告白したの知ってるんだね」


 なんて事を聞いてるんだと自分にムカッときたが、ユウが告白を事実と認める事とあまりショックを受けてる様子ではない事に気づいてジッと顔を見つめた。


「な、なに?」

「いや、フラレてんのに元気そうだなって」


 あーしはまた何を聞いてるんだと頭を抱えたが、ユウは柔らかく笑って答えてくれた。


「納得ができたからかな」


 その一言にあーしには入り込めないユウの想いを感じた気がした。そこに無理やり入り込むのは違う気がして、それ以上は聞きたい事は呑み込んだ。


 変わりに返す言葉は。


「ふぅん、じゃ、もう行くから、また明日な」

「ぇ、うん、また明日」


 ユウもまた明日と返し、部活へと速く歩きだした。



 たぶん、あーしはユウが好きなんだと思う。小学の時の一度だけの出会い、中学の再会、たったそれだけの時間しかユウとの時間は無かったのに、好きになるなんて変だけど、この胸の奥がずっと熱く消えないのは恋というやつなんだ。だけど、こんなのは誰にも言えない、ユウが好きな子は雨宮だ。

 きっとあーしはこれから雨宮に強く当たる嫌な奴になると思う。だけど、同時に。


雨宮あいつのサッカーも好き何だよな)


 圧倒的な才能を直に見せつけられてファンになってるなんて言えるわけもない。同年代のサッカーに惚れたのもまた事実として素直に受けとめるしかない。


「自覚する事が多すぎんだよッ」


 あーしは誰に聞かれるとも構わず空に向かって複雑な心を吐き出して部活へと走った。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スワローガール もりくぼの小隊 @rasu-toru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ